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『バイトリーダー』黒藪千代

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悔しさと情けなさと後悔と、入り混じる気持ちをペダルに込めるようにして猛ダッシュで自転車を走らせた。
 さっき遠くに見えていたコンビニを通り過ぎると、夜の空がスポットライトを浴びたようにほんのりピンクに染まって浮き上がって見えた。
 明かりが近づくと沢山の人が賑わう気配が伝わってくる。そして桜並木の入口までたどり着いた。
(桜通り端から5本目の木の右側)えっ?どっちの端?
 自転車に鍵をかけながら、素朴な疑問が頭の中に浮上する。
 この桜通りは近隣の市町村でも言わずと知れた桜の名所。全長300mあると市のホームページで見た事がある。近くに住んでいるけれど一度も訪れた事のない場所だった。目の前に広がる夜桜見物の光景は圧巻するほどの盛大さ。入口と出口、端は2つしかないのだからとわかっていてもこの中から人を探さなくてはならないのかと思うと、自転車を走らせた事も混乱を招いて非難された事も、もはや大した事ではないように思えてしまう。
 腕時計を見ると店を出てからすでに25分が過ぎていた。ショッピングモールの退出時間まであと50分しかない。レジ閉めもまだだ。
 どう考えても悩んでいる時間はないらしい。
 まずは今立っている入口から5本目の桜の木を目指そう。端がわからなければ、右側という情報も不確かということだ。
(いっぽん、2本、さんぼーん、四本、あった)
 5本目の桜。その下に視線を向けると、数組の団体が宴会をしていた。
 石井様の出で立ちは派手だった。黒地に金色の何だかよくわからない柄がついたシャツと鮮やかな黄色のズボン。金の太いネックレスにサングラス。整髪料がたっぷりと撫で付けられテカッた髪をしていたと記憶をたどる。
思い出しただけでも威圧感がある。街中ですれ違っても(見ちゃダメよ)と母親が小さな子供の手を強く引く光景が見えるように。
 沢山の人がうごめく中、目を凝らして一人一人確認する。上がる息を抑えながら慎重に見たけれどそれらしい人は見当たらない。反対側の5本目かもしれないと、その場を離れ先を急いだ。
 小走りに反対側の端を目指していると、車が一台、桜並木を横断するように走っていくのが見えた。道が横断している。桜並木が途中で途切れているのだ。道を挟んで向こう側にも続く桜並木。
 端は2つじゃなくて、4つなの?!
 少なからずショックを受けながらも足を止めずに進んだ。横断した道路の端まで行って、来た道を戻りながら数える。
(いっぽん、にぃー、3本、4本、5!)
 金の柄シャツ、黄色いズボンに金のネックレス。
 桜並木を奥へと進むにつれ酔っ払いの数が増えている。うごめく人を確認する動体視力が辺りの喧騒にかき消されてしまうようだった。
 また見当たらない。ガックリと落ちた肩のまま腕時計に目をやると退出時間まであと40分を切っていた。

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