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『バイトリーダー』黒藪千代

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「では、ご予約のお客様でお代済みの方はこちらにお並び下さい。大変申し訳ありません」
「なんだよっ!早く言えよー」不満の声が漏れ聞こえる。
 私の中に動揺が走った。バイトリーダーと大きな文字が頭の上から落ちて重くのしかかって来る。俯くと悪戯に笑ったあの時の正樹君の顔が浮かぶ。
 背中から頭のてっぺんに向かって(熱)が這い上がって来る感じがして顔を上げた。そして、歯を食いしばり再びレジに向き合った。
 顔に笑みを貼り付け、頭の中で数字を連呼しながらレジを打ち、商品を袋に入れ頭を下げる。
 約1時間繰り返して、ようやく店は落ち着きを取り戻した。

(やりきった!)安堵と達成感。二つの思いが私の中のバイトリーダーという呼び名を誇らしげに掲げてくれる。なんとも心地いい時間。
 と、さっきまで、ついさっきまで満足げに笑っていた自分を今は思いっきりバカヤローとヤジってやりたい!

 予約の寿司は時間前に作ってすでに持ち帰り用の袋に入っている。袋には、注文内容と代金支払い済みか、そうでないかを記入したメモが付けられている。手渡す時にはメモを見て名前と注文内容を確認し、最後に箸と醤油が入っているか見てから手渡すのだ。その一連の作業を新人の彩香ちゃんひとりに任せてしまった。
 彩香ちゃんのミスだけど、強いては私のミスだ。
 遠い昔、私にも覚えがある。同じようなミスをした。あの時お客様にひたすら謝ってくれたのは当時のバイトリーダーだった香織さんだ。
 高校生だった私は、大学四年生の香織さんが物凄く大人に見えた。いつもキレイにお化粧をしていて、着るものやバックも素敵で。憧れだった。
 彩香ちゃんにとって今の私は香織さんのようには写っていないだろ。頼りなくて、子供で。だからあんな不安げな顔をして私を見ていた。

 ショッピングモールの外に出ると辺りはすっかり夜になっていた。社員の小林さんと入れ違いに店に来た時にはまだ昼の3時。日差しが暖かく小春日和だった。桜が咲く季節とは言っても夜の3月はまだまだ肌寒い。Tシャツの上に店の白衣を着ただけの格好ではかなりの寒さを感じた。しかし、戻って上着を着る余裕はない。
 大通りに面した歩道を浸走る。行き交う車。コンビニの明かりがやけに遠く明るく見えた。耳元で風が鳴ると鼻の頭も指先も徐々に冷たくなって痺れていく。
 私は今、何故こんな状況に置かれている?そもそもあの客への対応を間違えたのか?あの対応で多少なりとも混乱を招き非難をあびた。けれどあの後、行列に並んでくれたお客様の中には(忙しくて大変ね)(また買いに来るから頑張って)と、泣きそうになる私の気持ちを励ましてくれる人もいた。やりきったと思えたのに、またこの状況。

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