「この企画を立ててくれた権蔵さんに感謝しかないですね。あっ、もちろんお手伝いされた実咲さんにも感謝しています」
「いえ、私なんて。実は、今日もう一つおじいちゃんから頼まれている事があって、修吾さん相談に乗って頂けませんか?」
実咲さんの口から(修吾さん)と俺の名前が出た事に足元がふわっと浮き上がるような嬉しさを感じた。
「お、おれ、いや、僕に出来ることなら」
座敷席の入口から権蔵さんを囲んで盛り上がる一同を見ると、大洋君が親指を立て悪戯に俺を見て微笑んだ。彼も権蔵さんに捕まってだいぶ飲んでいるはずなのに、なぜか涼しい顔をしている。大人のはずの俺がと、悔しい気持ちを抑えて実咲さんに向き直った。
「このうらら会を、私たち若い世代で引き継いで欲しいと言われたんです」
「それは、どうゆう?」
酔った頭に思考回路が絡まって引き継ぐという意味が入ってこない俺は首を傾げて言った。
「特に、何かをするって訳じゃないんです。年に一度こうして集まってこの場所で一緒にホッピーを飲む。ただ集まって、笑って。他愛もない話をするだけでいいって」
いつかきっと、懐かしくて泣けてきそうな他愛もない話。権蔵さんはそんな空気を俺たちに残してほしいと言っているのかもしれない。
テーブル席で賑わっていた母達は、いつの間にか人数が減って座敷に集まっていた。
「修吾ぉ~長っい便所だなぁ~」
時計を確認すると開始からいつの間にか二時間が経とうとしていて、外はもうほとんど夜になっていた。
「あなたが修吾さんね、立派な大人になって。あいさんがあなたを授かった時、私一度だけ会いに行った事があるのよ」
母の隣で嬉しそうに目を細めて言ったのはスエ子さんだった。
「そうなの、スエ子さんが来てくれなかったら今ごろ修吾は産まれていなかったわね~ふふふっ」
(ふふふっ)ってそんなに楽しそうに言う話か?訝る俺を置き去りに母とスエ子さんは目を合わせてもう一度笑った。
「俺が産まれて無かったって何でだよ?」
「迷ってたのよ、産むかどうか。だって四十を過ぎて恥ずかしでしょ。でもねスエ子さんに言われたの。この子は私たちの出会いから授かったのよ、だから産まなきゃダメよって。この子の成長はきっとこれからも私達を繋いでくれるわってね」
遠い昔を思いながら言った母の横顔。年の離れた兄弟の中で俺にも産まれて来た意味はあったのだと嬉しさがこみ上げて来た。
「修吾、お前は俺たちがうらら会を開いたその夜に、酔った文吾さんが仕込んだって訳よっ!だよな?あいさん」
「ふふふっ、そ、そうね、もういやだわぁ~、ふふふっ」
「もうっ、おじいちゃん!あいさんに失礼でしょ」