メニュー

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ
               国際短編映画祭につながる「ショートフィルムの原案」公募・創作プロジェクト 奇想天外短編映画 BOOK SHORTS

\ フォローしよう! /

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ

『うらら会』黒藪千代

  • 応募規定
  • 応募要項

「急にじゃねぇよ、あいさん心配してたぞ、このままじゃ死ねないってな」
 母はこの年まで独身の俺に、たったの一度も結婚とゆう言葉を向けた事はなかった。でも薄らと感じてはいた。きっと心配しているのだろうと。
「なんだよ、彼女いるのか?!」
「い、いませんけど、でもほらっ実咲さんは僕よりずっと若いですし、」
 動揺しながら、いつの間にかしっかり真面目に答えている俺。まだ明るい外に目をやってから、昼間のホッピーは旨いが、やっぱり効くなと思う。
「おじいちゃん、お待たせ。これでいいの?」
 実咲さんが両手にジョッキとホッピーの黒い瓶を持って戻って来た。俺は俄かに自分の顔が熱く火照っていくのを感じた。
「おぉ、それそれ!よしっ修吾飲むぞ」
 ジョッキの中にホッピーが注がれると弾ける泡がパチパチと音を立てた。
 火照った顔を実咲さんに悟られないうちにと、俺の中で虚栄心が起動してジョッキを煽った。
「いい飲みっぷりだね!修吾」
 調子よく持ち上げられた気がしないでもなかったが、ホッピーの中と外をひっきりなしに俺の前に差し向ける権蔵さんと他愛もない話をした。
 今までに最高でどれだけの酒を一晩で飲んだとか、野球とサッカーのどっちが面白いとか、正月の箱根駅伝は世の中で一番泣けるドラマだとか。
 気づけば、静かに飲んでいたはずの付き添いの俺たちは座敷中が一体となって権蔵さんを囲むように盛り上がっていた。
 どうでもいい話しをしながら、こんな夜はきっともう来ないかもしれないと思うと、この時間を止めてしまいたいと願わずにはいられなかった。

 母の付き添いで来たのだから、今日は飲みすぎないようにと思っていたのに俺は不覚にも少々酔っ払ってしまった。圭吾兄ちゃんが(権蔵さんには気をつけろ)と言ったのはこうゆうことだったのか?
「大丈夫ですか?」
 酔いを覚まそうとトイレに行って戻ると、実咲さんが冷たいおしぼりを差し向けてくれた。
「は、はい。権蔵さんはお元気ですね、負けそうだ」
「そうですね、今でも毎晩ホッピーを飲んでいるんですよ。でも今夜のおじいちゃんはとっても楽しそうです」
 俺が産まれる前からホッピーを飲んできた権蔵さんは、当たり前だが飲み方を心得ていた。俺はどうやら気持ちよく酔わされてしまったようだと気づく。
「そうですね」
 実咲さんの言葉を耳に、母の姿を目で追うと何とも楽しそうに笑っていた。

7/9
前のページ / 次のページ

第2期優秀作品一覧
HOME

■主催 ショートショート実行委員会
■協賛 ホッピービバレッジ株式会社
■企画・運営 株式会社パシフィックボイス
■問合先 メールアドレス info@bookshorts.jp
※お電話でのお問い合わせは受け付けておりません。


1 2 3 4 5 6 7 8 9
Copyright © Pacific Voice Inc. All Rights Reserved.
  • お問い合わせ
  • プライバシーポリシー