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『うらら会』黒藪千代

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 若者が多いホッピー通りに沢山のお年寄り、しかもその半分は車椅子に乗ってお供を従えての来店。予想通り、ちょっとした騒ぎになっている。
 おそらく、普段はもっと大人しい老人なのだろうと思えるような上品な振る舞いのお婆さんもいれは、昭和の文字を背中に貼り付けたような頑固な顔をしたお爺さんもいた。その一人一人が揃って弾けるような笑顔で楽しそうにホッピー片手に話をしている。
 涙顔が皺くちゃの笑顔になった母も、始終小さな笑い声を上げながら両手で持ち上げたホッピーのジョッキグラスを口に運んでいた。
 45歳になって始めて見る、母がお酒を飲んでいる姿。それは、何とも不思議な感じがした。
 俺が産まれるずっと前から、このホッピー通りには今と変わらないこんな風景があったのだと思う。気安い仲間と酒を飲んで笑い合う。そんな時間はとても大切だ。ずっと昔のその中に、父と母がいた事に思いを巡らせると、苦労ばかりの人生だっただろうと思っていた母が、本当は父に大切にされていたのかもしれないと思えて胸の辺りにほっこりと温かい気持ちが湧き上がる。
「何か、癒されるっす」
 隣に座っていた男の子、改めてよく見ると確かに男の子と言った年齢に見える。ひと目も憚らず潤んだ目で鼻を啜りながら俺に言った。
「そうだね」
 込み上げる熱い気持ちをこんなふうに素直に表に出せる彼の若さが羨ましいと思いながら相槌をうった。
「俺、小巻洋三の孫で太洋っす。あっ、先週二十歳になったんで!」
 若者は、俺の訝る視線をしっかりと認識していたのか胸を張って二十歳だと言った。
「洋三さんって、もしかしてお爺さんは93歳か?」
 蕎麦屋で母が言っていた事を思い出して聞いた。
「いや、95歳っす」
 あっさりと母の記憶を否定する大洋君。母に視線を向けた俺は年老いたその背中を受け止めなければと思う。
「ほんとっ、何か癒されるっす」
 付き添い席に座った俺たちは、しばしお年寄り達の喧騒を眺め、みんな静かに微笑みながらホッピーグラスを傾けていた。

「よぉ、修吾だな!」
 ホッピーグラスを片手に、俺の隣にどっかりと座ったお爺さん。初対面なのに、何故か親戚のおじさんのように呼び捨てにされた。
「やっと会えたな!権蔵だ」
 あの手紙の主。とても88歳の米寿を迎えたとは思えないくらいに元気だ。
 いつの間にか隣に座っていた実咲さんに目配せをすると、実咲さんは悪戯に微笑んで席を立った。
「俺の孫!実咲、いい女だろっ!どうだ、修吾まだ独身だって?」
「なっ、何ですか急に」
 お年寄り達の楽しそうな雰囲気に、ほっこりとした気持ちで昭和への思いを馳せていたのに、いきなり現実に引き戻されたようで俺は少なからず動揺した。

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