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『うらら会』黒藪千代

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 腹を抱えて笑う母の横で実咲さんが権蔵さんの肩をバシっと叩いた。
 一同がどっと笑うと、母が徐にカバンの中から父の写真を取り出した。

「文吾さん、約束果たせたよ!」
 さっきまで笑っていた権蔵さんが、急に真顔になって写真の中の父に姿勢を正して言った。
「文吾さん、亡くなる間際に病院のベッドで言ったんだよ。修吾が社会人になったらこの店で一緒にホッピー飲んでくれって。あいつが大人の仲間入りをする瞬間を俺の代わりに見届けてくれってな!」
 皺に囲まれたちっちゃな権蔵さんの目が、涙を一杯に貯めて赤く潤んでいた。
「健吾に良悟、慎吾と圭吾もみんなここでお父さんとホッピーを飲んで笑い合ってね。今日の権蔵さんと修吾のように」
 母は、権蔵さんの顔を見つめてその小さな身体を折り曲げるように深々と頭を下げた。
 それから小一時間、残った数人のうらら会のメンバーと付き添いの俺達は、また懲りずに他愛もない昔話を繰り返した。
 始めてホッピーを飲んだ数十年前の母とスエ子さんが、酔った勢いで父達に不満をぶちまけた事、年に一度の集まりが夫婦の絆を深めた事、そして45歳で俺を身ごもった母が子育てを終えるまでうらら会を休息する事になったと言う。昔話を、ついこの前の事のように勇んで話すお年寄り達。今も昔もこの場所では同じ時間が流れていたのだと思った。
 やがてお年寄り達に疲れが見え始め、別れを惜しみながらお開きとなった。
 また来年、必ず会おうと皺に包まれた手を握り合う。
 俺は実咲さんと一緒に一年後、必ずまたこの会を企画する事を約束した。
 一年ずつその数は確実に減っていくだろう。それでも権蔵さんが、父が作ったこのうらら会を俺はいつまでも続けて行きたいと強く思った。
 ホッピー片手に他愛もない話。若いうちも年を取ってからも、それが何よりも大切な生きる力になると信じて。

 勿論、実咲さんにも会えるし。と、俺の生きる力は確実に強まっていた。

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