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『うらら会』黒藪千代

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「何だよそれ?また、そんな事言って俺に押し付けたいだけだろ」
「違うって!だってあの店行ってないのおまえだけだろ」
「おまえだけって、兄貴達は行った事あんの?母さんと?」
「あぁ、父さんと母さんと行ったんだ。皆二十歳を過ぎて就職した年に連れて行ってもらったんだ。お前が就職した時はもう父さん亡くなってたからな。だから母さん、今回は修吾と行きたいって言ったんだよ」
 もしも、父さんがもう少し長生きしていれば俺も兄貴達と同じように父さんと酒を酌み交わす事もあったのだろうか。

「わ、わかったよ!俺が連れて行くよ」
「そうか、母さん喜ぶよ!あっ、権蔵さんには気を付けろよ」
 意味深な事を言って電話を切った圭吾兄ちゃんの声を耳に残したまま、カレンダーに目をやると、あの手紙に書かれていた集合の日まであと1週間しかなかった。
 すぐ母に電話をすると(ふふふっ)と電話口で笑ったあとで(ありがとう)と言った。控えめな母が声にして笑いを漏らす時は本当にうれしい時だけだったと思い出す。
 90歳の身体。出来る限りのケアをしたいと俺はホッピー通りに行く日の前後一日ずつ休みを取った。あの通りから一番近い宿を予約して車いすの手配も済ませた。

「ほらっ、お父さんも連れて来ちゃった。ふふふっ」
 東京行きの新幹線の中で、昨日兄貴の嫁さんが美容院に連れて行ってくれたと嬉しそうに言った母はいつもよりふんわりと艶を帯びた白髪に、薄っすらとお化粧をした顔で言った。
 東京駅から俺のマンションまでは地下鉄を使って1回乗り換えた先にある。時間にして40分程だ。予測した通り母にとっては長旅で疲れた表情をしていた。しかし、前日に東京入りして一晩ゆっくり眠ったせいか、翌日の朝には顔色も良く朝ごはんまで作ってくれた。
「何人来るかしら?」
 味噌汁を啜ってから箸を置いた母は、ふと寂しそうな顔をして呟いた。
「そうだな、」
 何か元気づける事を言ってやりたいと思ったが、何も思いつかず。俺はお椀に顔を埋めるようにして味噌汁を啜った。

 車椅子に座る事を嫌がった母を、何とか説き伏せて浅草へと向かった。
 午後3時前のホッピー通りは夕刻に向かって賑わい始めていた。
 手紙に記されていた店はホッピー通りの中でも牛すじ煮込みが美味いと評判の老舗で、俺も何度が行った事がある。確かロールカーテンで仕切られた個室があったような気がする。
 車椅子に揺られながら辺りの喧騒をゆっくりと見渡す母は、心なしかピンッと背筋を伸ばして身を乗り出しているように見えた。
「あの、うらら会に来られた方ですか?」

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