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『うらら会』黒藪千代

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 10年後88歳の米寿を迎える予定でおります。この辺がもうそろそろ残っている人数も限界かと思われますので、この手紙を受け取って頂いた皆さまと是非、是非にもう一度あの思い出の場所で『うらら会』を開きたく思っております。どうか、ご参加頂けますように説にお願いいたします。
 敬具
 追伸:電話などで簡単に生存を確認できる時代ですが、夢を持ってこの時まで生き抜きたいと考えますので、皆さまご理解をお願いいたします。よって、ご返信も遠慮いたします。
 権蔵(ごんぞう)・スエ子

 二枚目の便せんをめくると、そこには浅草ホッピー通りの地図とお店の名前、日時が記されていた。
 長い文面を食い入るように読みふけっていた俺が顔を上げると、母はすでに蕎麦を平らげてゆっくりと蕎麦湯を啜りながらチラリと俺の顔を見た。
「うらら会?何人くらい集まるの?」
「さぁね?だって電話で確認するなって書いてあるだろ」
「一番年上は誰?」
「お父さんがいないから、おそらく私かね?いや、確か洋三さんが私よりも3つ上だった気がするよ」
 93歳って事か。あの騒がしい浅草のホッピー通りで80歳を過ぎた爺さん婆さんが群れてホッピーを呑んでいる光景を想像すると、ちょっとした騒ぎになる。なんせ今のホッピー通りは若者で溢れている。45歳の俺でも楽におっさん扱いされるのだから。
「誰も来ないかもしれないよ」
 この浜松から浅草まで、年老いた母を連れて行く事の大義を考えるとやはり思いとどまってもらう事を選択したい。
「そうだね・・・」
 それきり母は何も言わなくなった。だけど俺は知っている。穏やかな空気を纏ったように見える母が、実は物凄く頑固だって事も。

 浜松から東京に戻って半月が過ぎた頃だった、システムの不具合が発生して徹夜作業を終えた朝に電話が鳴った。
「修吾か、俺だ、オレ」
「あのな、こないだも言ったけどオレオレ詐欺じゃないんだからちゃんと名乗れよ!慎吾兄ちゃんか?圭吾兄ちゃんか?」
 男5人兄弟、みんなそれなりに年を取ると声の質がそっくりで区別が難しい。もっとも、スマホの画面には名前が出ているのだが。俺はいつも見ないで通話ボタンを押してしまう。
「おぉ、圭吾だ!おまえ母さんに浅草連れてけって言われたか?」
「あぁ~その話ね。母さんやっぱり諦めてなかったのか」
「連れてってやれよ。自分からどっかに行きたいなんて滅多に言わない人なんだからさぁ」
「俺だって、忙しいんだよ!それに長旅で疲れて体調でも崩されたら俺の責任になっちゃうじゃんか、俺そんなの嫌だから」
「誰も責めないよ。あの年まで生きられた母さんが、もうおそらく行きたいと思う所に行けるのも最後かもしれないし。それに今回ばかりは修吾じゃなきゃダメなんだよ」

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