メニュー

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ
               国際短編映画祭につながる「ショートフィルムの原案」公募・創作プロジェクト 奇想天外短編映画 BOOK SHORTS

\ フォローしよう! /

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ

『盗まれたホッピー ~この4人の場合~ 』三宅和樹

  • 応募規定
  • 応募要項

 すると、産業医は視線を右に逸らした。今、注文などしている場合か、聞くべき事があるだろうと言いたげに。確かにその通りだ。小浦は、産業医以外には聞こえないように声を発した。
「教えてください……僕は、何の病気なんですか……」
「……心臓」産業医は明確に宣告した後、「ハツね」と言った。
 産業医に告げられた臓器が跳ねた。焼き鳥屋だから「ハツ」と言った彼女の医者ジョークには、愛想笑いすらできなかった。「心臓の重病」を抱えているのだ。再び涙が溢れそうになったが、病気の詳細を、助かる見込みはあるのかを聞かなければならない。しかし、第三者がいる場所での繊細な話は、彼が望むところではなかった。
「どこか……静かなところに移動しませんか」悦司は言った。
 ところが、産業医は彼の意図を理解してくれなかった。老婆のように掠れた声で「なんで?」と訊いてきたのだ。小浦は堪えきれず、自身の思いを口にした。
「俺の、息子が大きく」なるまでは、死にたくない! だから、治療法を教えてください。「もう我慢できません!」言葉足らずではあったが、全身全霊で気持ちを伝えた。
「すっごい、肉食!!」産業医は答えた。
 どういうことだ? 肉をたくさん食べると治る病気なのか……??
 考えを巡らせたが、凡人には若手天才医師の治療案は理解できなかった。

 
■白ワイン

 彼の右口角が上がった。
 背中を向けて座っていた女が、体をくねらせて、上目遣いで誘惑してきたのだ。

 城和院翔(しろわいん しょう)、彼がモテる理由はいくつかある。
 まずは、『銀座英國屋』で誂えた、このスーツだ。一般的な35歳の男が着られるような代物ではない。しかし、彼には先見の明があった。株で儲けた金で買ったのだ。勿論、総理秘書である以上、量販店のスーツを着る訳にはいかないという事情もある。が、理由はどうあれ、この高級スーツが彼の魅力を高めていることは間違いない。
 もう一つの理由は、顔だ。所謂イケメンである。周囲からも、小栗旬に似てるね、とよく言われる。ただ、そこまでの高級顔ではないことは、本人もわかっていた。例えば晴夏に「ガッキーに似てる子、紹介するよ」と言われた時も、実際に会ってみると、確かに丸顔ではあるが、ピアノの鍵盤を彷彿させるほど強調された歯並びの子だった。きっと晴夏はガッキーと楽器の区別がつかない人種なのだ。つまり、似ているというのは、あくまで似ているだけで、本人ではない。それでも彼は、風邪を引いたときの小栗旬ぐらいの顔であることは自負していた。

 そして現在、彼は焼き鳥屋で、ワンピースの女に誘惑されているのだ。ついさっきまで、彼女の向かいには若い男が座っていた。緊迫した様子だったから、別れ話でもしていたのだろう。そして、男が席を離れるとすぐ、女は翔に色目を使い始めた。別れた直後でも、新しい男に心を移せる女なのだ。

6/9
前のページ / 次のページ

第2期優秀作品一覧
HOME

■主催 ショートショート実行委員会
■協賛 ホッピービバレッジ株式会社
■企画・運営 株式会社パシフィックボイス
■問合先 メールアドレス info@bookshorts.jp
※お電話でのお問い合わせは受け付けておりません。


1 2 3 4 5 6 7 8 9
Copyright © Pacific Voice Inc. All Rights Reserved.
  • お問い合わせ
  • プライバシーポリシー