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国際短編映画祭につながる 短編小説「公募」「創作」プロジェクト 奇想天外 BOOK SHORTS

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『盗まれたホッピー ~この4人の場合~ 』三宅和樹

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■ホッピー

 彼女が戻って来た時、ホッピーはそこから消えていた。
 ホッピーは盗まれたのだ――

 その日、堀田ピーコは同じ事業所で働く、2つ年下の小浦悦司を初めて食事に誘った。彼女は悦司に思いを寄せていたのだ。
 声をかけたのは定時後だ。29歳の大人の女とは思えぬほどの、硬い表情と余裕のない声だったが、意外にも悦司は快諾した。その後、勝負服に着替えた。ダークブラウンの太いリボンベルトがアクセントになっている、薄いクリーム色のワンピースだ。胸の形が強調され、艶っぽさと清楚さを醸し出している。
 そして、この焼き鳥屋に来たのだ。入口から見て、右側に4人掛けのテーブル席が縦に3つ、左側にはカウンター席が7つあるだけの小さな店である。二人は真ん中のテーブル席に座った。気軽な店での楽しい会話を期待していたが、そうはならなかった。緊張のせいだ。彼女だけではない。悦司にも緊張の色が見えた。彼女の緊張が伝染したのか。若しくは、悦司も元々ピーコに好意以上のものを抱いていたのか。もし後者なら、文字通りチャンスである。
 ピーコは焼酎ホッピーを、悦司はコーラを頼んだ。焼酎はボトルである。焼酎のコーラ割を悦司が飲むと思ったからだ。しかし彼はコーラだけで飲んだ。
「悦司くん、お酒飲まないんだ」
「ええ、飲みません」強い否定だ。
 女性を口説くのに、酔った勢いに任せるのは良くないという考えなのだろう。男らしいとも言えるが、このような固い考えが草食系男子を生み出すのだ。少量のお酒の力を借りるのは、恥ずかしい事ではない。
「ちょっとぐらい、いいと思うよ」
「え? そうなんですか?」悦司は嬉しそうに言った。
 喜んだ彼の顔が可愛い、彼女はそう感じて笑顔を返した。二人の間の空気が少し柔らかくなった。そして、自分のジョッキにホッピーを注ごうとした時、1本目の瓶が空になっている事に気付いた。
「すいません、ソトください」ピーコが言った。ソトがホッピー、ナカが焼酎だ。
 カウンター内にいる店員が大きな声で返事をした。店員は顔も体格も熊を連想させる風貌だ。名札には「店長」の後に名前が書いてあるようだが、彼女の席からは読み取れなかった。
 電話の呼び出し音が鳴った。懐かしいペプシマンのCM音楽だ。悦司はスマホを手に取り、ピーコの顔を伺った。
「どうぞ、私トイレ行ってくるから」ピーコは鞄を持ち、立ち上がった。
 悦司は、すみませんと言い、スマホを耳にあてた。
 その時、「お待たせしました」と熊店長が、二人の卓上にホッピーを置いた。確かに置いた。そして、ピーコは店の奥のトイレに入った。

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