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『盗まれたホッピー ~この4人の場合~ 』三宅和樹

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 彼女はトイレの鏡前で口紅を塗り直し、髪型をチェックした。せっかくいい雰囲気になりかけている。後は、店を出て、歩きながら酔ったフリをして、彼の腕に寄りかかれば……その後は簡単だ。彼女は鏡に向かって笑顔の練習をし、よし!と言った後、トイレを出て、席に戻った。

 ホッピーの消失を確認したのはその時だ。不思議なことに、1本目の空瓶までも無くなっていた。

 彼女は椅子に座り、ちょうど電話を切ったばかりの悦司の顔を見据えた。
 お酒を飲んでもいいとは言ったが、飲みたいのであれば注文するべきであり、私のホッピーを許可なく飲んでいいという訳ではない。
 悦司は視線をそらした。動揺だ。しかし、それは、窃盗行為の背徳感によるものか、愛する人からの視線による含羞か……いや、もしかすると、さっきの電話の相手が女性で、そのことがピーコにばれないかという不安の現れなのかもしれない。この男は多種多様な草を食べる草食系なのか。
「ねえ、さっきの電話の相手、彼女?」ピーコが訊いた。
「やめてくださいよ。そんな人いませんよ」
 本心だろうか。ピーコは彼の目を見つめた。心理学の本で得た知識だ。相手を10秒間見つめる。もし対象者に疾しさがあった場合、普段とは異なる言動が表れるのだ。ピーコは1からゆっくりと頭の中で数え始めた。4まで数えた時だった。
「ピーコさんの思っている事、はっきり言ってください」悦司は静かに言った。「男として覚悟はできています」
 どうやら、ピーコの方からモーションをかけて欲しいという意味らしい。教科書に載せたいくらいにわかりやすい草食系男子だ。ピーコは彼の言葉を嬉しく思ったが、今はモーションをかける時ではない。カウントを続けなくてはならないのだ。彼は続けて何かを呟いたが、話を聞いていると、どこまで数えたかわからなくなってしまう。彼女はカウントに集中した。そして、数え終えた時、安心して「10秒……」と声を漏らした。その直後、彼女は重大なミスに気付いた。カウントに集中するあまり、対象者の観察という本来の目的を見失っていたのだ。彼女が再チャレンジをしようとした時だった。
「トイレに行ってきます」悦司は立ち上がり、その場所に向かった。
 悦司の取り調べは一旦中断する他ない。

 次の容疑者は、あいつだ――

 ピーコは座ったまま上半身を右に捻り、入口側のテーブル席に一人で座っている男を下から睨みつけた。奥側のテーブルは空席だ。カウンター席の奥には中年男性が二人で飲んでいるが、そこからは遠すぎる。しかし、この男の席からは2、3歩あるいて手を伸ばせば届く距離だ。もし、悦司が電話に夢中になっていたのなら、盗むのは容易だ。しかも、男のテーブルには、ホッピーの瓶が3本もある。

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