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『1/3の掟』十六夜博士

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 周りの喧騒が消え、静寂が僕らを包んだ。
 僕の視界には榎本さんとホッピーだけしかなかった。
 どれぐらい経ったのか分からない。榎本さんの瞳から、ポトポトとそれこそ音を立てるように涙が落ちた。
――榎本さんの中のダムが決壊した……。
「トシちゃん……」
 榎本さんは小さく呟くと、ポトポトと涙を流し続けた。

 
「ちょっと、飲んでくか」
 得意先と新システムの仕様打ち合わせをした帰り、珍しく都内に出てきたこともあり、同行していた新人の松岡と係長の二宮を誘った。
「あっ、良いですね」と、酒好き女子の松岡が目を輝かせて乗ってくる。35歳独身男の二宮も、「どうせ俺、暇っすから」と、彼女もいない境遇を憂えた自虐的な肯定で反応する。
 さすが都内とあって、オフィスのある郊外とは比べ物にならないくらい煌びやかな飲み屋が林立している。僕たちは、ちょっと小洒落た居酒屋に入った。
 席に通され、メニューに目を通した僕は、「おっ!」と声を上げた。
 僕の反応に、「えっ、どうしたんですか?」と松岡が興味深そうにメニューを覗き込んでくる。メニューを二人が見やすいようにテーブルに置くと、メニューのある箇所を指差した。
「ホッピーがあるよ。こんな都会の店にもあるんだな……」
 二宮が、「ホッピーって何すか?」と顔をしかめた。「あたしも知らない」と松岡が続く。
 僕は、一週間前の西山さんの葬式の時に知ったということを悟られないように、「ホッピーっていうのはなぁ……」と、30年前から知っているかのごとくホッピーの説明をした。
 メニューをしかしかと覗き込んだ松岡が、「黒とか赤もあるんですね。どういう違いがあるんですか?」と聞いてきた。
――んっ!? 黒とか赤?
 メニューを覗き込むと、黒ホッピー、赤ホッピーと書いてある。
――そんなのあったっけ……!?
「黒とか赤とか初めてだなぁ……」と、とりあえず取り繕ってみると、「佐藤さん、ホッピーのこと本当に知ってるんですか?」と、二宮がニタニタとスマホをググり始めた。
「バッ、バカ言え!知ってるよ。でも、黒とか赤は昔なかったんだよ……。きっと……」
 尻すぼみな僕の発言に、「本当ですかぁ?」と、スマホを見つめたままの二宮はさらにニタニタとする。
「あれっ!?本当だ!黒とか赤は昔、無かったみたいですね……」
 ググって見つけたホッピー情報を二宮が説明した。
「だっ、だろ!」と、僕はちょっとホッとする。

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