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『1/3の掟』十六夜博士

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 その後、よくよく聞いてみると、こういうことだった。
 一本のホッピーを何回に分けて飲むか――、という命題。
 普通は、僕がやったように、一つのナカに、ホッピーを半分入れ、一本のホッピーを2回に分けて飲む。一杯目を飲んだら、ナカだけお代わりし、残りのホッピーを全て注いで飲む。つまり、一本のホッピーでジョッキ2杯を飲む。多くの人はそう飲むのだそうだ。だけど、榎本さん曰く、ジョッキ2杯では満足できない。なので、ホッピーをもう一本頼むとする。すると、必然的にジョッキ4杯飲むことになる。ジョッキ4杯でもいいのだが、毎日のように飲むとすると、4杯だと今度はやや飲み過ぎとなる。榎本さんと西山さんは30歳の頃、毎日のように仕事終わりに飲みに行ったのだそうだ。やや飲み過ぎでもそこで帰ればまだ良いが、危険なのは、ジョッキ4杯も飲むと、議論も白熱しやすくなって、気づくと、ジョッキ4杯どころか、ジョッキ6杯、8杯と際限なく飲んでしまうことも多かった。そうなると、翌日、頭が働かなかったり、下手をすると二日酔いで休暇を取る羽目となったり、弊害も出てくる。かといって、西山さんと毎日飲みにも行きたい。ということで、平日はホッピーのお代わりなしで、ホッピー1本で、ジョッキ3杯飲むことに決めた。そうすれば、飲み過ぎることもないし、ジョッキ3杯飲める満足感もある。榎本さんと西山さんは、これを「1/3の掟」と呼び、励行したそうだ。
それを今、僕がアッサリと破ってしまった……。
 だけど、僕からしたら、「1/3の掟」を知らないし、本来の飲み方なんだから良いじゃないか、と思わなくもない。それに今日から榎本さんと毎日飲みに行くわけでもないし……。
 僕がそう言うと、榎本さんは僕をジロリと睨んだ。
「いいか、佐藤。考えても見ろ。もし俺とお前が同じペースで飲んだらどうなる。俺が3杯目を飲む頃には、お前、ホッピー追加しちゃうだろ。となると、俺たちが3杯目を飲み終えた時に、今度はお前のホッピーが半分残ることになる。そうなると、俺がホッピーをもう一本頼まないといけない。結局、2と3の最小公倍数の6杯をお互いが飲まないと気持ちよく終われないんだ。俺とトシちゃんは、これを『最小公倍数の罠』って呼んでたんだよ。ホッピーを飲んだことがない奴と飲みに行くとよく起こる。だから、気をつけていたんだが、久しぶりにホッピーを飲んだんで忘れてた……。それに、慣れると、ホッピーの1/3でナカを割った方が意外といけるんだ」
 僕は、うーんと唸る。
 掟とか罠とか言われてもなー、というのが正直なところだったが、なんだかんだ難しいこと言っているけど、結局、(ホッピーの1/3でナカを割った方が意外といける)ということを僕にも伝えたいんだろうという気がした。だって、いろいろなリカバリーの仕方はあるように思うから――。
「まあ、いいよ。今日は6杯飲んで行こう。トシちゃんの分も飲んで行こうや」
 榎本さんは、勝手に頭を抱え、勝手に気を取り直していた。
 人騒がせな掟だな――、と僕は内心苦笑した。
「それから、このマドラーはジョッキをかき混ぜたら、ホッピーの瓶に入れる」
 榎本さんは、ホッピーのマナー説明を続けた。余程思い込みがあるんだろう。僕は、掟を破った謎の後ろめたさもあり、「なるほど」と気持ち良く相槌を打ち、マドラーを榎本さんがするようにホッピーの瓶に入れた。
 よし、ともかく献盃か――、とグラスを宙に掲げながら、榎本さんと目を合わせようとする。すると、予想に反し、榎本さんは、ジョッキを掲げることなく、ホッピーのジョッキをまじまじと見つめていた。
 真一文字にきつく閉じた唇が小さく震えている。

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