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『1/3の掟』十六夜博士

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 最後に小さく呟き、花を収めると、棺から離れる。僕の方を振り返った榎本さんは、今まで見たことのない表情をしていた。般若が悲しんだら、こんな表情になるんだろう――。
 でも、涙はなかった。

 一通り、葬儀を終え、僕と榎本さんは、久しぶりだからと、一杯飲んで帰る事になった。
「しんみり、帰ったら、トシちゃんも悲しむ。飲んで帰ろう!」
 榎本さんの言う通りだと思った。
 お寺の近くの飲み屋に入る。
 通された席で、メニューをめくっていると、榎本さんが、「おおっ、ホッピーがあるじゃない」と笑顔を見せた。
「昔、トシちゃんとよく飲んだなー。30歳ぐらいの時だよ。1980年頃。お前もホッピーでいいだろ?」
 そう言うと、僕の了解を待たず、榎本さんはホッピーを二つオーダーした。
 僕はホッピーを飲んだことがなかった。
「ちなみに、ホッピーって何ですか?」と素直に訊くと、「そうか、お前らの年代は知らないか……」と、榎本さんが、ホッピーの解説を始めた。
 ビール風味の清涼飲料で、焼酎で割って飲むこと。1980年頃、流行っていたが、チューハイになどに押され、1990年代はあまり流行らなかったこと。でも、最近、また飲まれ出したこと……。
 僕は、なるほどと思う。僕が学生だったバブルの頃、みんな、チューハイを飲んでいた。その頃はちょうどホッピーの低迷期で知らないのだ。
 そんな話をしていると、店員がホッピーを運んできた。ホッピーと書かれた茶色のボトルと、ちょっと小ぶりのジョッキ。ジョッキの半分ぐらいまで、透明の液体が入っている。
「ホッピーをソト、焼酎をナカって言うんだ。ソトをナカに注ぐ……」
 榎本さんがホッピーをジョッキに注ぎ始めた。僕も真似して、ホッピーをドボドボと注ぐ。
 すると、榎本さんが「あっ!」と声をあげ、「ストップ!ストップ!」と僕がホッピーを注ぐのを慌てて制止した。
 一杯に注がれた僕のジョッキを見て、「あー、言い忘れた!」と頭を抱える。
「えっ、なんか間違えました?」
 榎本さんの失望ぶりに、何か大変な過ちをしてしまったのかと心配になり、眉根を寄せた。
 すると、榎本さんは、「掟を破っちまった……」と、頭を抱えたまま不気味な事を呟いた。
「掟って……」
 何のことかわからず、ドギマギとしている僕に、「ホッピーの残り見てみなよ。どれぐらい残ってる?」と、いじけた子供のように榎本さんがそっぽを向く。
 僕はホッピーの瓶をライトにかざすと、「半分ぐらいです」と答えた。
「あー、やっちまった……」
 榎本さんがガクッと項垂れた。

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