ジョッキをゆらして中身を軽く混ぜる。氷がコロコロと鳴って、てらてらと中身がじんわり混ざり合う。
「おいしいもんだね、ホッピー」
私が言うと、ハッピーですから、と店員が言う。いつから私たちの話を聞いていたんだろうと少し恥ずかしくなる。
「無理だろうなとか不味いだろうなって思っても案外合わせるとおいしいものなんですよね、コーラとホッピーみたいに」
「まるで人間模様だわ」
そう言って酔いはじめた友里に、店員は嫌がりもせず、それですね、と笑った。いい笑顔だった。カウンターには刺身や揚げ物が並び、遠くの人の笑い声が聞こえ、店員さんの手元から醤油の香ばしい匂いがたちこめてくる。この状況のほうが婚活パーティーなんかよりよっぽどパーティーだ。どんなに高級なワインを好きでもない人と飲むより、ホッピーを好きな人や気になる人のそばで飲むほうがよっぽど美味しい。
まさか恋じゃないだろうと思いながら、もしや恋かもしれないと思いつつ、これからこの店員と何かなったりするんだろうかと考えつつ、何にもならないだろうなと考えつつ、ほんのちょっと何か変わっていったらいいのになと期待しつつ、分離しきれない気持ちをホッピーを混ぜるようにしてゆっくり口に流し込んだ。恋のはじまりなんてどんなだったか分からなくなっているんだ、だけど、たしかに今はちょっとなぜか、ハッピーだなと感じた。ファースト・ホッピーって、そこから何かはじまるんでしょうか、と心の中で問いかけながら店員を見ると、おいしいでしょ?と言わんばかりに爽やかな顔でこっちを見た。