そう言う店員に、ナイスネーミングだね、と友里が親指をぐっと立ててイイね、と返した。
「大事なんですよ、最初の印象とか感覚って。一番最初に美味しいなって思ったらもう美味しいじゃないですか。恋も初恋が特別みたいに言われるし。初対面で好きって思ったらきっと好きじゃないですか。ホッピーも最初が肝心なんですよ」
いいこと言った、と友里がもはやおっさんのようにはやし立てる。
「彩夏さんみたいにビールが苦手な人はおいしいですよね、お客さんみたいにお酒が好きな人には自宅でもおいしく飲める方法ありますよ。キンミヤって知ってます?」
名前で呼ばれた私は思わずジョッキに口をつけたまま固まる。そんなことに気付かず、知ってる知ってる飲むよと友里が声を大きくして言う。
「キンミヤって最近小さい袋のパウチのやつ出てるんですよ。冷凍できるやつなんですけど。それ冷凍してもらって、グラスに入れてホッピー入れると猛暑には最高ですよ」
どんなだろう、と思っていると、店員が、お酒のかき氷みたいな感じですかね、と教えてくれる。けらっと笑った顔が、いつまで見ていても飽きないだろうな、なんて思わせる。
「なんかこのお店いいね」
私が小さく友里に言うと、わかった、と目をパッと大きく見開いてにやっとした。
「彩夏、ひとめぼれした?とか?」
え?と思って店員を見ると、二つ隣の椅子に座るおじさんから、から揚げの注文を取っていた。額の横がうっすら輝いて見えるのは汗だろうか。
「ち、ちがうでしょさすがにこれは。年齢も絶対5こは下そうだし」
「そういうふうに言う時点でもうあの子に興味持っちゃってるよね」
「ちがうってそれは」
「年齢気になるのが昨今の国内事情だけれども、そんなのはひとりひとりの好みであって分からないものなのだよ彩夏くん」
「なにその急に学者風」
私が笑うと気をよくした友里はメガネもかけていないのにメガネを指でくいっと上げるしぐさをする。
「15歳上のモデルさんを好きになる男の子も世の中にはいるものなのだよ。世間はいろいろ金目当てだ売名だ言うだろうけれどもあれだ、男の子がそもそも年の離れた女の人しか好きにならない性質かもしれないじゃないか。ね、彩夏くん。仮にだ、世間の言う通り経年劣化して別れて捨てられたってなったとしてもだよ、いいじゃないか、一時でも幸せなんだもの。いいじゃないか人間だもの」
「なんで急にみつを調!」
笑いながら、あぁそういう考えもあるのか、と思える。
「だからいいんだよ彩夏くん。惹かれたなら惹かれたと素直に白状したまえルパン」
「だからなんで急に銭形調!」
笑いながらジョッキに口をつけると、ホッピーの麦らしい匂いが鼻に届く。楽しい。