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『最後のキス』太田ユミ子


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「やっぱり国産は香りが違うね。一人で食べるよりも二人の方が美味しいね」
 母は松茸料理で元気を使い果たしていたので、絵里子が後片付けをした。
「おかあさん、コーヒー飲む?」
 母はうなずいた。プロジェクトのことは絶対に他言してはならない。でも、一つだけ母に確かめておかねばならないことがあった。絵里子はコーヒーカップを母の前に置くと、母の目をまっすぐに見つめた。
「お母さん、もし人生を変えることが出来たら、違う道があったとしたらどうする?」
四
「おめでとうございます。よくがんばったわね」
 斎藤さんが笑顔で絵里子に握手を求めた。絵里子はその手を力強く握り返した。絵里子は第一号のモニターに選ばれたのだ。今日はついに実験の日。実験室は四畳半ほどの白い壁に囲まれた部屋。部屋の中央には四角いテーブルと椅子が一つずつ置かれ、テーブルの上にはデジタル時計と電話機が一台。昔懐かしいダイヤル式の黒電話。電話のコードはデジタル時計につながっていた。デジタル時計は靴箱ぐらいの大きな物で、西暦の年月日と時間が秒まで表示されていた。
(これが画期的な発明?声のタイムトラベルが出来る装置?)
 レトロな電話とバカでかいデジタル時計にしか見えなかった。
「遊び心よ。それらしい形にしなかったのはね。でも、これは本物よ。世界にたぶん、一つしかない」
 斉藤さんが絵里子の心を見透かしたように言った。
「何を話すかちゃんと決めてあるわね。三十秒よ。チャンスは一回限り。私たちは別室で見ています。回線は繋がってから、三十秒で自動的に切れます。もし不適切な言葉と判断されれば、即、切れます」
 斎藤さんは念を押して出て行った。絵里子は椅子に座り、深呼吸を一回してから受話器を取った。まず、日付だ。一九八七・八・三一―ダイヤルを回すとデジタル時計に日付が表示された。日付をしっかりと確認した。日付が入れば、時間は自動的に午前零時に設定されて、止まっている。日付は電話が普及していた時代ならいつでも可能だが、時間は今のところ午前零時しか設定できないと聞いている。
 後は絵里子が生まれ育った家の懐かしい電話番号を回せば通じるはずだ。三十年前のわが家に。絵里子は二歳だった。父はあの夜、一人で家にいた。絵里子は母のフリをして大切なことを父に伝える。大丈夫、絵里子の声は母にそっくり。年も三十年前の母と同じ。絵里子はゆっくりとダイヤルを回した。
五
 耳元で呼び出し音が鳴っている。受話器を持つ手が緊張のためか震えている。心臓がドキドキしているのが聞こえて来るほどだ。留守のはずは無い。もう寝てしまったのかもしれない。それなら、起きるまで鳴らし続けるだけだ。チャンスは一度きり。
(お願い、出て!)

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