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『最後のキス』太田ユミ子


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「普通だったから。平凡で普通の人がいいの」
「母子家庭で育って、一人っ子。結婚して十年になるのに子供がいない。現在、夫と別居、離婚調停中の私が普通なの?」
 斎藤さんはすごく真面目な顔で、
「そんなことはみんな普通の範囲内よ」
 普通の範囲内―絵里子はその言葉が気に入った。
「それとね、後一つ、携帯を持っていないこと。三十代で、仕事していて、携帯をもってないなんて、時代に流されない強い意志があるってことよ」
 単に面倒くさいから持ってないだけなのだが・・・。
「他の最終候補の人たちは?」
「全員、持っています」
 最終候補に選ばれたモニター十人はこれから研修と試験を繰り返し受ける。そして、三ヵ月後の十二月、最終試験と最終面接の後、一人が実験モニターとして選ばれる。過去に電話をかけることができるのはたった一人。
三
 母がマンションに来たのは絵里子が研修と仕事に追われて忙しい日々を送っていた十月の半ばだった。母は西宮で一人暮らしをしている。父が他界してから、母は生命保険会社の外交員として生計を立て女手一つで絵里子を育てた。二年前、定年退職し、やっと悠々自適の年金暮らしが始まった。
「一緒に食べようと思って―」
 母はビニール袋の中から新聞紙にくるまれたものを取り出して、台所のテーブルの上に置いた。秋の香りが部屋中にひろがった。
「松茸!どうしたの?」
「篠山から送って来たの。やっぱり国産は香りがちがうね」
 丹波篠山は母の故郷だ。
「こんなにたくさん、二人で食べきれないよ」
「剛志さんを呼んだら。剛志さん松茸大好きでしょ」
「おもしろくない冗談ね。離婚調停中の夫と仲悪く松茸料理を食べるなんて」
「本当に別れるつもりなの?」
 絵里子は言葉に詰まった。自分の気持ちがわからないのだ。このところ忙し過ぎて、離婚調停中であることを忘れかけていた。松茸ご飯に土瓶蒸し、焼き松茸―母の作った松茸づくしの夕食はひさしぶりに絵里子の心を豊かにしてくれた。
「ごちそうさま。おいしかった」

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