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『或る家の灯』前田雅峰


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「それを恥じて、御前は一体何を欲しがったのだ。何を得たいと思ったのだ」
「御前は馬鹿だ。そんな事も判らないで、どうして平気で或(あ)の家に居る事が出来たのだ」
 容赦の無い、厳しい詰責が順次の心に向けられた。自分は、両親の或(あ)のあたたかで平和な家に入る資格が無い様に感じられた。若松のホテルに向かう例の娘と順次の同級生を乗せた列車が川桁の駅を出る頃、もう順次は其処に居られなくなり、独り駅を出て、家に向けて歩き出した。

「帰ったら、此の事を父ちゃんと母ちゃんに話そう。そして、謝ろう」
 順次はそう思っていた。すると突然、
「あの……」
 と順次は声をかけられた。誰かと思って順次が振り向くと、其処には知らない娘が立っている。もう辺りは薄暗く、順次には本当にそれが誰だか解らなかった。俯いていたその娘がおずおずと顔を上げたので、順次がしげしげと確認すると、何処かで見た顔だった。しかし思い出せない。
「失礼ですが、あの、どなたでしたか」
 娘は一瞬悲しそうな顔になったが、暫くしてその悲しそうな顔のまま、順次に何かそんなに大きくない風呂敷包みを両手で差し出した。順次が不思議そうにそれを見ていると、
「あの、お店で余ったものなんですけど……」
「お店?」
「駅の売店」
 その言葉で順次は思い当たった。国鉄の方の川桁駅にある売店の売り子さんだ。時々駅のプラットフォームで停車中の列車に駅弁や御茶を売っている時もあった。
 さて、それは良いのだが、お店で余った、まあ今日のうちに食べて仕舞わないといけないものだろうから、多分お弁当であろうが、それを何故自分にくれるのか順次は全く解らなかったが、何となく、
「何故、此れを僕に?」
 と尋ねると、此の娘がもっと悲しそうな顔をする様な気がしたので、
「有難う、今夜家族で頂きます」
 と返事し、此の事に感謝している事を示す為、間違っても迷惑だとか不審そうな顔付きをしない為に、にっこりと笑った。娘は悲しそうな表情がちょっと和らいだ様子だった。軽く腰を折って挨拶し、小走りに国鉄の駅の方に去って行こうとするのを見た時、順次に或(あ)る想念が湧いた。順次は後ろから声を掛けた。
「駅でのお仕事が今日で最後という事は、ないですよね?」

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