「やり方わかるの?」
叔母に頷く。十円玉をはめ込みレバーを回した。けれどガムは落ちてこない。
「回し足りないんじゃないの?止まるまでまわしてごらん」
叔母にいわれた通りにすればやっとガムが落ちてきた。水色のガムだった。それを取って見せるとふたりはよかったねと笑った。そしてガムを口に入れようとすると祖母の表情が変わった。
「口にいれたらいけん」
祖母は必死にわたしを止めた。わたしはきょとんとした。
「それビー玉じゃろ」
丸くて食べるにしては毒々しい色のガムが祖母目にはビー玉に映ったのだ。
「これ、食べられるよ」
祖母に教えた。ガムだというのをいわなかったのは無意識のうちにまたずるい心が働いたからかもしれない。祖母は娘である叔母を見た。叔母は首を捻った。
「ビー玉みたいじゃけどな」
叔母もこれがガムだということを知らなかった。
「これ食べているひと見たことあるよ」
わたしは懸命にいったが幼子のいうことをすぐには信じてくれなかった。そして祖母がわたしの手からガムをとるとカメラ屋の兄さんに見せた。
「お兄さん、これは食べられるものなんですか?」
お兄さんはえっと戸惑い変な顔をした。
「そこの、あれから出てきたものなんですけど」
祖母はガムボールを何度も指さす。お兄さんは変な顔したまま頷いた。
「食べられますよ」
取り繕った愛想で祖母に教えた。祖母はわたしの手にガムを戻した。
「食べられるって」
最初から知っていた。そこでやっと私はガムを口に入れることができた。おいしかったかどうかは覚えていない。
叔母が家にすいかがあるといった。だから寄って帰ったらいいといった。祖母とわたしだけで帰らすのは不安だったのだろう。わたしはすいかなんていらなかった。それより父親達が起きる前に祖母の家に帰りたかった。けれど祖母はすいかが好きだった。だからわたしも好きだと思ったのだろう。寄って帰ろうと私にいった。わたしはなにもいわなかったし頷きもしなかった。
そこからどういう風に歩いて叔母の家いったか、それも覚えていない。大きなテーブルの真ん中に三角に切られたすいかが大きなお皿に並べてあったのは覚えている。隣で祖母がおいしそうにすいかを食べていた。叔母がわたしの皿にすいかを分けようとすると、わたしは首を振った。