スーパーに入ってすぐ、カメラ屋の隣にガムボールを見つけた。丸くてカラフルなガムが詰まったあのマシーンにかけよった。
「それやりたいんか」
すぐに頷いた。そのときずるい心が働いた。前にこれをやりたいと母にねだったら、ガムは小学生になってからといわれ、やらせてもらえなかった。
「いくらや」
そんなことを知る由もない祖母はためらいなく財布を開けた。
「十円」
「十円か?百円でお釣りはこんのんか」
わたしは首を捻った。祖母は百円玉をはめ込んだ。私が銀のレバーを回してみたが回らなかった。
「だめか」
「お母さん」
祖母と一緒に振り向くと買い物を終えた近所に住む叔母がいた。
「お母さん、ひとりできたの?」
叔母はわたしに気がついていたけれど、わたしを数には入れなかった。
「この子が退屈しとったから菓子を買いにきたんよ」
「ちゃんと兄さんにいってきたの?」
叔母は心配というより怒っているように見えた。
「大丈夫」
祖母はなんてことない顔をしていた。わたしは大丈夫ではないのに出てきたことをなんとなくわかっていたが、黙っていた。叔母は半信半疑の様子だったが、ならいいけどと呟いた。
「それよりあんた、十円持ってないか」
「十円?」
「この子がこれしたいいうんじゃけど、わたし十円ないんよ」
祖母がガムボールに目をやった。
「ちょっと待って」
叔母は手に持っていた買い物袋を肘の裏までさげると財布を出した。
「あった。二枚あるわよ」
「一枚でいいけん」
叔母はわたしに十円くれた。