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『イチジクの花が咲くころに』芹田アン


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「笹本さん、おはようございます。」
 香子はまさに敷地にさしかかった笹本さんに笑顔で答えた。
 朝のミーティングが終わったあと、送迎の職員は外へ出ていく。残った職員は、朝の掃除の続きをしたり、個別の申し送りをチェックしたり、お休みの利用者さんや見学の予定などの確認、前の日の洗濯物を所定の位置に設置したり、安全確認など、とにかく忙しい。あっという間に、利用者さんを乗せた送迎車が着いてしまう。香子は時間を気にしながら、急いで事務室に向かう。この時間なら、まだ外出せずに主任が居るはずなのである。
 香子は取り急ぎ要件を告げると、主任は目をぱちぱちさせてから、しばらく見上げるようにしてじっと香子の顔をみつめている。それから小さく頷いた。
「お土産は、笹かまがいいなぁ。お酒のアテに最高だよねぇ。」
 じっと香子の顔を見つめたまま、主任は答えた。
「了解しました!ありがとうございました。」
 香子は事務室に一礼して、急いでフロアに戻った。

「ほれにしても、香ちゃんがじっはにはえるなんてびっくりだわ…」
 笹本さんが、口いっぱいにおにぎりを突っ込んだまま話しかけてきた。
「笹本さん、食べるかしゃべるかどっちかにしてください。」
 香子は自分のお弁当に視線を落としたまま答えた。8月のシフト表が配られたのだ。お盆に珍しく休みを取っていた香子の話題があがるのも仕方がない。例によって、探究心に満ち溢れている笹本さんが食いつかないはずはない。
「こっちに出てきてから、一度も帰っていないんでしょう?お母さん、きっと喜んだでしょうね。」
 笹本さんがにかっと笑う。それ以上は聞くつもりはないらしく、残りのおにぎりを口に突っ込んで、インスタントの味噌汁のカップをぐるぐると割り箸でかき混ぜている。香子はそんな笹本さんをちらっと見て、少し考えてからこう答えた。
「笹本さん、「おくずかけ」ってこのあたりでは食べますか?」

 
 うわ…知らない建物がたくさんある…
 香子はペデストリアンデッキから、ぐるりと周りを見渡した。たかだか数年の間に、西口はもちろん、東口なんてすっかり変わってしまった。新幹線の窓から東口が見えた時は、思わず「えっ。」と声に出たほどである。
 何も変わっていないのは、私だけなのだろうか…
 香子はふと、また不安に襲われる。なんとなく、あの日から自分は何も変わっていない、変われないのだと不安に襲われる時がある。どうしてここまで不安に思うのか、何度考えてみても、さっぱりわからないのである。
 何が不安?何が怖い?何で帰りたくない?
 バス停まで向かう間ぼんやりと昔のことを思い出す。バス停にあるポスターで、動物園の名前が変わっていることに気が付き、また声をあげた。

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