俺の目の前に置かれたのは、ピーマンと玉ねぎとウインナーがたっぷり入ったケチャップ味のスパゲッティで大盛り。その上に粉チーズが富士山の雪のように降り積もっていた。
「さぁ、食べよ」
オバジェンヌは、いつも食欲全開らしい。
スパゲッティナポリタンは、めちゃ旨い。給食のない土曜日は、ここでこれを食いたいな。あっという間に全部食べた。純子さんは、これもどうぞ!と、ミックスジュースを持って来てくれた。オカンのことは心配やけど、美味しいもんは、人をしあわせにしてくれる。俺は、ひとくち一口かむように、ミックスジュースを飲んだ。
オバジェンヌは、俺の顔を見て笑ってた。
それにしてもオカンの行動が意外や。オカンはやかましい場所が大嫌いやなのにパチンコに行くなんてありえへん。それに、この純喫茶「純」では、気分が乗るとカラオケをしていたらしい。しかも歌う曲は水前寺清子。それはかなり似合っている選曲やけど、それにしても酒も飲まずに拳を振り上げて歌う姿はなんか想像できひへん。そう、俺にとってのオカンは、しっかり者の優等生タイプで、泣いている子がいたら抱き寄せ、泣かしている子がいたら蹴り上げ叱りつける。正義と勇気の塊みたいな人やったから。
「そろそろ行こか」
オバジェンヌが席を立った。
「これよかったら電車で食べて!」
純子さんがサンドイッチを持たせてくれた。
「ありがとう。行ってきまーす」
「敏子さんに会ったら、また、いつでも唄いに来てや!って言うといて」
そう言いながら、純子さんは俺の肩をぎゅうっと抱いた。蜂が寄って来そうな甘い匂いがして俺はゾクゾクした。
オバジェンヌは、駅には向かわずに神社に寄った。
「なんで神社や」
「ちょっと寄り道」
境内の欝蒼とした木々の中を通りを抜けると、空気が入れ替わった。冷んやりして気持ちいい。冷たい水を霧にしてかけられたみたいな気分になった。
その瞬間、風の神様が猛スピードで駆け抜けた気がした。
コトコトと鳴る音の方に目を向けるとそこにはたくさんの絵馬がごった返していた。
なんか俺は吸い込まれるようにして、その絵馬に近づいたわ。
そしたら、なんと!びっくり!オカンが書いた絵馬があるんやわ。
「守が泣きたい時に、ちゃんと泣ける子でいられますように」 敏子
なんじゃ!こりゃ!腰抜けるわ。泣きたい時って。