オバジェンヌは、桜なんかバラなんかようわからん花びらのプリントのワンピースを着ていた。
「よそゆきやねん」
「ふーん、似合ってるわ」
俺は、右目の下が窪むのを感じながら言った。
連れて行かれたところはパチンコ屋やった。うるさいし、臭いし、ようこんなところに何時間もおれるな。オバジェンヌは、台を物色しとった。
「おばちゃん、和歌山行くんちゃうん?」
「まぁ、待ちいな。ここは敏子さんも来てはってんよ」
「おかんは、パチンコせーへんよ」
「いいことがあったときだけ、来てはった」
「ええことって?」
「マモルくんにおかんの卵焼きは日本一やな、と言われたことを嬉しそうに言うてはったこともあったし、宿題の作文を先生に褒められたときにも来てはった」
「ふーん」
そんな気分がいいときに打つと、たいがい勝てるらしい。
俺は時々、おかんと近所の焼肉屋に行った。おかんは、その時はいつも「今日は上が付くもんばっかり頼もう!」って、上タン、上ミノ、上ハラミ、上ロースとか、ええもん食べさせてくれたわ。あの時、パチンコで勝ってたんやろな。おかんの意外な顔を知った。
パチンコ屋を出てからオバジェンヌは、純喫茶&スナック「純」という店に俺を連れて行った。レンガの壁にステンドグラスをはめ込んだ窓、分厚い木の扉を開けると、ワインレッドの椅子がカウンターに七席並んでいる。白いテーブルに4人がけのテーブルと椅子が四つの席がふたつあった。
ここは明らかに子供は入れない場所だと店の明るさが語っていた。オレンジのシェードの照明は仄暗く、オバジェンヌがきれいに見えた。
純ママは、俺の住んでる住宅に住んでいる純子さんだった。まつ毛が無駄に長い女性で、いつもいい匂いがした。純子さんの家は、オバジェンヌの隣で、俺の家の隣の隣だった。
「わぁ、マモルくん!いらっしゃい!」
純子さんがきれいな笑顔で迎えてくれた。
「連れて来たでー」
俺はドキドキしながら店と純子さんの顔を交互に眺めた。
「こ、こんにちは」
「ふふ、お母さんには、お世話になっています」
「えっ、おかん? ここに来てたん?」
「そう、常連さん! 夜勤明けに、ナポリタン食べに来てくれはんねん」
おかんがこの店でナポリタンを食べる姿を想像できひんかった。