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『うるわしきひととき』広瀬厚氏


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「これ終わったらすぐ行くって言っておいて」
 オイル交換と点検を済ませ自分が出張に向かおうとした時、
「すいません、こんど車検お願いしたいんですけど」と、長谷川さんが工場にはいって来た。
「あ、はい。すいませんが事務所のはうに妻がいるんで、そちらでお願いします」「おーい清美! 長谷川さんが車検だって。話聞いておいて」
 自分は車検の話を妻に任せ、長谷川さんに一礼し、急いで高橋さんちへと出張に向かった。
 軽トラに適当な工具やらブースターパックやらつんで道をゆく。両窓を全開にしてハンドルを握った。秋の心地よい風が車内に吹きぬける。カーラジオからボサノヴァの調べが流れる。それに合わせて出鱈目な鼻歌をうたう。自分はなにかと煩わしい日常をしばし忘れ、晴れ晴れした気分となった。
 高橋さんの車は、自分がそうじゃないかと思っていたとおり、ただのバッテリーあがりだった。ブースターパックをつなぐとすぐにエンジンはかかった。
 高橋さんは普段ほとんど車に乗らない。乗っても遠出することはまずない。そうするとバッテリーはどうしてもあがりやすくなる。
「ちょっとそこまで行くのに久しぶりに車で行こうと思ったらエンジンがかからなくってね。それでバッテリーは交換したほうが良いかな? 」高橋さんが聞く。
「うーん… そんなに古くないから充電すれば大丈夫だと思いますけど」
「まあとにかく点検してきてくれるかな。悪いところあったら全部交換してもらえれば結構だから」
「そうですか。それじゃお借りしていきます。交換必要なものがありましたら連絡しますので」
 自分は軽トラをおいて代わりに高橋さんの車に乗って工場に帰った。高橋さんの車は走行距離も少なく快調で、交換するものはこれと言ってとくにないだろう。
 工場に帰るとご近所の鈴木さんがみえていた。息子が免許を取ったので車を買ってやる、と言う。その相談で来たのだ。話し好きの鈴木さんは他にもいろいろ話していった。自分はおもに聞きやくで、うんうんとうなずいた。
 あっという間に昼になった。昼食中にも仕事の電話がなった。珍しいことにこの日、何や蚊と、ずっと忙しく過ごすことになった。
 晴れて気温が上がったせいだろうか、忙しいと同時に季節外れの蚊に何度も襲われた。蚊には気の毒だが、他に致し方ない、そのたびプシューッと殺虫剤をジェットで食らわした。だって刺されると痒くて不愉快なんだもの。「蚊君! 僕を刺さないでくれないか! 戦いをやめ、互いに譲り合い、講和しようではないか」と、言葉は通じずとも、たとえば念じて、通ずればありがたいが、残念ながら通じない。ので、自分は無心でトリガーを引いた。ちなみに越冬する蚊もいるらしい。
 三時すぎに幼なじみの浩がまた顔をみせたのだが、忙しいのを見て「あら忙しそうじゃん。頑張ってな、また来るよ」と言って帰っていった。自分は「悪いな、またな」と返した。
 結局忙しくて、まったくギターを弾くひまがなかった。一日休むと三日後退するなんて言ったことを聞いたりもする。夜に自宅で練習するとしよう。
 いつもはだいたい六時には工場のシャッターをおろすのだが、この日は少々遅くなった。自宅には学校から帰った花子が先にいた。自分と妻が帰宅すると、居間でテレビを見ていた娘がふり向き言った。
「おかえりなさい。今日はちょっと遅かったね」
「忙しくてさ」と自分は返した。

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