「ああ、だからわけに来たんじゃないか。俺が車買いかえりゃお前んとこの利益にもなるだろ」
「まあそうだ。迷ってるのか… いま乗ってるやつと同じくらいのクラスのやつか? 」
「ああ」
「そうだなあ、よく壊れるやつが良いぞ、うん」
「なんだそりゃ、ふざけやがって」
「そうすりゃ俺んとこが修理で儲かるからな。って冗談はさておき」
と、自分は席を立ち、数冊のカタログを選び持って来て、テーブルの上に置いた。
「それで家族とは相談したのか? 」と、自分は問うた。
「そりゃもちろんしたさ。でも良恵も子供んたちも言うことばらばらでさ、結局昭次さんところ相談しに行ってきたらって良恵も言うもんだから、こうやって来たんだよ」と、浩は答えた。
ふたりがカタログを見比べ、ああでもないこうでもないと話し合っていると、外からすいませーんと呼ぶ声がした。すぐに清美が、はーいと応え出て行った。
「藤井さんの奥さんがバンパーのかどこすっちゃったから、ちょっと見てほしいって」清美が事務所のドアを開け言う。
「ああ、いま行くよ。浩ちょっと待っててくれ」
「いや仕事のじゃましちゃ悪いから俺帰るよ。また来るからさ。あっ、カタログ貰ってって良いか? 」
「ああ持ってけ。基本たいてい暇だからまたいつでも遊びがてら来いよ」
ふたりは揃って事務所を出て工場の外で「じゃあな」「ああ」と言って別れた。工場の前では藤井さんの奥さんがしゃがんで、こすった車のフロントバンパーを心配そうに見ていた。自分が「おはようございます」と声をかけ、こすったところを見てみるとたいした傷でなかった。
「これくらいの傷なら塗るまでもないですよ。コンパウンドで磨いておけばほとんど目立たなくなると思います」
自分はコンパウンドとポリッシャーを持って来てバンパーを磨いた。するとやはりほとんどの傷は消えた。一ヶ所ほんのちょんと塗装が剥がれているところがあったけれど、そこは筆でちょんと塗料を塗った。
「藤井さん、これでどうですかね? 」
「ありがとうございます渡辺さん。もちろんけっこうです。もっと大ごとになるんじゃないかと思ってました。ほんとこれくらいで済んで良かったわ。わたしはぜんぜん気にしないんですけど、知ってのとおり主人がうるさいでしょ。すぐ渡辺さんところ持ってけ! ってね。おいくらかしら? 」
「いえいえこのぐらいでお金いただけませんよ。けっこうです、サービスしておきます」自分は顔の前で手をふり言った。
「それじゃ悪いわよ」
「いやほんとけっこうですから」また手をふった。
「そう… あっ、そう言えばオイル交換の時期が来てると思うからお願いできます? ついでに他に悪いところないか見ておいてください」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
自分が藤井さんの車をピットにいれオイル交換と点検をしていると事務所の電話がなった。タイヤの空気圧を調整していた清美が走って事務所へ行き電話にでた。
「高橋さんがエンジンかからないから来てって」清美が事務所から顔をだし言う。
「場所はどこ? 」自分は聞いた。
「自宅の駐車場よ」