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『ローズ・ハッカ・ジンジャー』柿沼雅美


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「今日はほとんど事務だったかなぁ、請求書作ってたり」
「あぁ面倒だよねそういうの」
「そうなんだよなー。デザイナーとか言っても結局自分で事務作業もしなきゃいけないから、純粋にデザインのこと考えるより今日は事務のほうが長かった。だめだなぁ」
「しょうがないね」
「えらいよなぁ美樹は。しょうがないって言いながらちゃんとやるもんなぁ」
 今日もそう言う豊に、私は、そんなこともないんだけどねぇー、と返した。
「しょうがないっていうのじゃおさまらないこといっぱいあるよー」
「まぁ美樹は我慢強いだけだな」
「まぁね。たとえば、豊と早く結婚したいのにできないこととか」
私が言うと、豊はなんとも言えない顔をしてビールを口につけた。
「またそれ」
 豊が少し微笑みながら言い、だって言いたくなっちゃうんだもーん、とわざと遊んでいるような言い方をした。すぐに、冷蔵庫にピーマンが残ってたから次来たときは肉詰めでも作ろうかなと言うと、豊は、いいね、好きだし、と言い、私は、知ってるよー、と笑った。
 あぁ今日もこんな感じか、と思いながら、こればっかりはしょうがないと言いたくないけど、これが一番しょうがないのかもしれない、と思った。
 お互いに結婚したいって同じタイミングで思ってそれになんの障害もないというのは奇跡的なんじゃないかと思えば、しょうがないか、と自分に言い聞かせるしかない。
 由香や恵美や紗英を合コンに連れ出しながらも、心のどこかでみんなに相手が現れなきゃいいなぁと思うのもしょうがないし、合コンで誰か男の人に出会ったとしても豊と時間をかけてすりあわせて来た時間や価値観を超えるものはないと毎回気づいてしまうのもしょうがない。
 何年も付き合っても、相手の家族に犯罪者がいるとか人を傷つけたくなるような精神の人がいるとか借金があるとかそういう理由がある人はみんなどうしているのだろう、そんなことを思うと、一緒にいられればもういいような気がしてくる。
 食べ終わると当たり前のように二人でシャワーを浴び、テレビをつけては消して、キスから始まるセックスをした。飽きられるんじゃないか、もっと綺麗な身体の女性を抱きたくなるんじゃないか、そんな不安を持ちながら、でもこんなに気持ちよくなれて豊を気持ちよくさせられるのは私だけだ、となぜか思う。
 豊が私で果て、微笑みながら寝転がりながら腕をまわしてくれ、私は自分の後頭部の形で豊の肩から胸にかけての形がぴったりだということに今日も喜び、汗ばんだ豊の皮膚に唇をくっつけたまま流れる時間に身を任せた。
 豊に妻がいるとか言うと、世間は私や豊みたいな人間をゲスとか呼ぶんだろうか。ふと、もう乙女でもないからバンド名にもできないよねぇと何かの話のときに由香が言ったのを思い出して思い出し笑いをしかけた。
「なに? なんか思い出した?」

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