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『父親を待つ娘』前田雅峰


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「でも、チョコレートは送ろう。絶対に送るんだ」

 此れは私がまだ若い頃、旅をしていて或る馬鉄の廃線跡で出会った女の子との物語である。私は此の旅で、他にも色々な人間に出会った。しかし此の女の子との出会いが一番記憶に残っている。それはその時から三十年の時が経った今も、全く色褪せずに私の瞼に焼き付いている。思い出す、のではない。それ以来、私はずっとその記憶と一緒に生きて来た。
 此の記憶は大人になった私の人生の殆ど全部を通じて、私の背後にずっと在った。それが何故かは分からない。何故此の出来事が私の若い頃にあり、そして私がその事をずっと忘れずに生きて来たのか、私自身に説明出来る筈が無い。しかし私はそうであってくれた事を幸せに思っている。よくぞ此の出来事が私の一生の中に在ってくれたと感謝している。私は自分に此の記憶有るがために、どれだけ、その後の人生で自分を落ち着かせる事が出来ただろう。どれだけ、自分が本当に求めているものが何か分からせて貰った事だろう。何を目指して生きるのが私にとって必須であるのかを如何に鮮明に知らせて貰った事だろう。
 此の出来事は私に指針をくれたのである。
 人生は何か一つの事で決まって仕舞う訳ではない。大きな出来事は慥(たし)かに有るが、それでもそれが致命的なものであって二度と再び自分に希望を抱く事を許さない程のものである事は、無いとは言わないがそう多いものでもない。逆に、何か良い事があっても、その喜悦が一生続くという事も普通は有るものではない。しかし私のそれは一生続き、私を不可思議に温かい光で照らし続けたのである。
『一つの事実で可(い)い。一つで可(い)いから自分を支える事実が欲しい』
 そう言いたくなる時は、誰にだって有るだろう。私のその『一つの事実』に、此の出来事はなってくれたのだ。
 もう一度言おう。私は其処(そこ)で何を見たのか。私は其処(そこ)で一体何を体験したのか。今もって判らない。言葉に出来ない。けれどそれが何らかの私の努力の成果だった訳ではなく、一方的に向こうからやって来て、そして私に与えられた恵(めぐみ)であった事だけは間違いが無い。
 私の一生は、自身が勝ち得たもので支えられたのではなかったのである。此れは、嬉しい事ではないか。

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