夜半になって、大輔が浩一の部屋にやってきた。
「どうした?」
「パパ、ごめん。パパといっしょにキャンプに行くよ」
「うん、でももう中止に決めたんだ。気にするな。お姉ちゃんも受験勉強があるし。それに山下君との約束、守らなきゃダメだろ。友だちとの約束は、必ずまもるんだぞ」
浩一が笑顔をみせると、大輔も笑いかえしてくれた。
「そうだよね。ありがとう、パパ」
「山下くんに、よろしくな」
浩一は壁に無造作に貼ってある、キャンプの思い出写真に目をやった。まだ彼が三十代のなかばで、綾香が中学生になったばかり、大輔はまだ小学四年生だった。そうなんだ、子どもたちは成長するんだもんな。と浩一は思わないわけにはいかなかった。
数日後のことである。祝日も出勤の浩一の職場に、慶子はふたりの子どもを誘った。
クルマで十分ほどかかる場所なので、とくにセールをやっているとき以外は立ち寄れない。近場にあるべつのチェーンで買い物をすませるのを、浩一がとやかく言うこともない。慶子にとっても、久しぶりの訪問だった。
ちょうど浩一は、バックヤードで打ち合わせの最中だという。休憩までは二十分ほどあるという。まだ本人には来訪を伝えていない。
「綾香、ここから覗いてごらんなさい」
店内の来客用トイレがバックヤードの廊下にあるので、その奥で打ち合わせをしている浩一の姿がみえる。
よく見ると、業者の提案を聞きながら、部下の意見を訊いているようだ。そうしているあいだに、タイムサービスの時間がきたらしく、パートの販売員に指示をだすのがわかった。
「忙しそうね」
慶子がそう言うと、綾香が口をひらいた。
「パパ、うちにいるときと違うね」
「男のひとは誰でもそうよ」
「ママったら、女だって同じよって、いつも言ってるくせに」
「うぅん、それはそう」
慶子も週に四日は、ファミリーレストランにパート勤務しているので多忙だ。それが浩一の店に寄れない悩みでもある。
「大輔、どう思う」
「頑張ってるよね、パパ」
そうしているうちに、浩一の休憩時間になった。バックヤードの脇にある休憩室に入ろうとするところ、慶子は思いきって窓を叩いた。すぐに浩一が気づいた。
「なんだ、三人そろって。ちょうどこれから休憩なんだ」
綾香がさきに口をひらいた。
「パパ、見てたわよ。みんなで、パパが頑張ってるって」