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『夏休みの宿題』麻ひろ美


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 マヒロは、やったことがない作業の前に首を傾げた。
 「小学校二年生は二枚って決まってるでしょ。二枚にマヒロの気持ちをつめこむの。読んでる人がこの本はこういう本なんだ、読んでみたいなって思ってもらえるように。」
 マヒロは、十枚の原稿用紙を一枚一枚、日付が若い順から目を通した。
 「ママ、マヒロね、文章書くの好きになった。」
と、得意気に私に顔を向けた。
 「ママとね、いっしょにいろいろ考えたでしょ。他の宿題もママみてくれたから、いつもより楽しかったな。」
 目頭が熱くなってきた。潤んだ目をごまかすように、急いで台所に立ってお湯を沸かし始めた。
 原稿用紙は、赤い線でいっぱいになった。そこからまた削っていて、言葉を厳選して、並べていく作業は、結局半日以上続いた。
赤い線と、赤い文字が並んだ原稿用紙から紡いだ言葉を、新しい原稿用にまとめていった。
 結局、規定枚数を超えて三枚となってしまった。まだ厳選作業をして、二枚にしないと。
 明日は、病院に行かなければならない。母は付き添いをかってでてくれたけど、一人で行こうと決めていた。
 マヒロには、明日は読書感想文の宿題はお休みということを伝えると、つまんないのっと、筆箱に荒々しく鉛筆をしまった。

 次の日、留守番を頼んだ母が来てくれたので、私は家を出た。
 マヒロの読書感想文はあと二、三日で終わるだろう。
 マヒロは、私が投げたボールに無邪気に答えてくれた。そして、そのボールを丁寧に私に返してくれた。ボールを返してもらうたびに、私の中に何かが生まれていった。
 一人で病院に行こう、そう思ったのもそのボールのおかげ。
 私に自信を持たせてくれた読書感想文は、何十年かして、こんな形で私に帰ってきた。母と肩を並べてやった夏休みの恒例の宿題が、私とマヒロにもつながっていく。
 少なくなった薬の袋をぶら下げて、バス停から家までの住宅街の小道を歩いていると、「ママ~」と奥の方から手をふっているマヒロがいた。
 「ママ、バアバがおやつにドーナツ作ってくれたよ。」
 マヒロは、玄関の方に手招きした。早く早くとせかされ、リビングに手を引っ張られる。
 母は、マヒロがトイレにたったすきに、病状のことを聞いてきた。
 薬が少なくなったことを告げると、よかったよかったと頷いた。
 母は、マヒロが戻ってくるのを横目で気にしながら、
「マヒロね、ママが元気になってくれるために読書感想文頑張ってるんだって。今日も一人で原稿用紙出してきて、やってたよ。これ内緒ね。マヒロに口止めされてるからね。あとね、ママのご飯おいしいのバアバ知ってる?って自慢されちゃったよ。」
 「私が元気になるように?」

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