「じゃあ、そこの場面にピンクのマーカーで線をつけてみよう。」
マヒロは、本に書いていいの?とびっくりしていたけど、喜んでマーカーをつけていった。
「もう一個ある。」とピンクのマーカーをつけた。
原稿用紙にも、「かえり道に、おとうさんと手をつないで帰ったところです。」と書いた。
「じゃあ、今日はここまでにしよう。明日また次の課題だすよー。」
私は今日書いた原稿用紙の上に日付を記した。
次の日は、新しい原稿用紙に、昨日の続きで、その場面がどうして印象に残ったのかを書くのを課題にした。
ピンクのマーカーで引いた本のページを開けると、マヒロはうなっていた。
「マヒロ、この場面が印象に残ったってことは、好きってこと?」
「そう、好きなの。」
「どんなところが好きなの?」
「おとうさんががんばったところ。あきらめなかったところ。」
「それそれ。書いてみよう。」
マヒロは原稿用紙に、書いていった。
今日も原稿用紙は、一枚の半分以上文字でうめられていた。
「マヒロ頑張ったから、おやつにホットケーキ作るね。」
マヒロは、ママのホットケーキ、ママのホットケーキと小躍りしながら、リビングの中をはねまわった。
次の日も次の日も読書感想文の課題を私は出し続けた。
あゆみちゃんが、もしマヒロだったらどうした?
おとうさんはどうしてがんばれたんだろう?
あゆみちゃんは、おとうさんのれんしゅうをみて、どう思ったんだろう?
私が問いかけると、マヒロはいろんな思いを原稿用紙に書いてくれた。
あゆみちゃんがおとうさんがんばってと思ったように、お父さんにむかってがんばれがんばれってわたしもおうえんしていました。
あきらめずにさいごまでやりぬくって、きもちがいいことなんだ。
あゆみちゃんはさかあがりができなくてがんばったけど、わたしも走るのがにがてです。秋のマラソン大会がいやです。
でも、あきらめないでさいごまで走ろうと勇気がでました。
毎日毎日課題を出していった。十二日間で原稿用紙十二枚になった。毎日毎日文章を書いていくと、マヒロは初日とは見違えるくらい、すらすらと文をつづっていく。自分の気持ちを書き記すことに嬉しさすら感じているかのように、真剣に原稿用紙と向き合っていた。
「マヒロの気持ちがたくさんたまったね。」
と、書き溜めた原稿用紙を前に、私は微笑んだ。
「今日から、仕上げに入るよ。今までマヒロが書いたものを、原稿用紙二枚にギュってつめこむからね。大事だなって思う分のところに赤鉛筆で線をつけていこうね。」