二日目の課題は、午前中に終わった。大きな文字でそんなに分厚くない本だからマヒロは午前中に読み終えた。
午後は、マヒロとおやつのホットケーキを一緒に作った。ゆっくりとした時間が流れていく。日常であって、今までの私の非日常の世界。しばらくぶりに夕焼けも見た。
その夜、マヒロが寝た後、私も昼間にマヒロが読んだ本を手にとった。マヒロは、どんな感想をもったんだろうと思いを巡らせていたら、眠りにはいっていた。
そして三日目。頬杖ついたマヒロが、わからないを連発し、机の上の原稿用紙をへの字口で見ている。どのぐらい自分で書けるのかな、と私はマヒロの実力を確認するつもりだったけど、五分たっても十分たっても、一向に原稿用紙は白いままだった。
「そうね、いきなり書くの緊張するよね。じゃあこの本をママまだ読んでないから、どういうご本だったか、ママに教えてくれる。」
うん、と言って話そうとする娘の口を人差し指で抑えて、
「それをね、口で教えてくれるんじゃなくて、ここに書いてほしいの。」
と、私は原稿用紙を指さした。
マヒロは鉛筆を持つと、頬杖をやめて書き出した。
「お父さんと、あゆみちゃんと、さかあがりができるようになるためにれんしゅうをするお話しです。あゆみちゃんは、お父さんのむすめです。あゆみちゃんの学校で、さかあがりができないのは、あゆみちゃんともう一人だけだからです。あゆみちゃんは、おともだちにばかにされるので、さかあがりができるようになりたいと思っています。いっしょうけんめいれんしゅうして、さきにあゆみちゃんがさかあがりができてしまいます。おとうさんは、さいごにできるようになりました。あゆみちゃんは、お父さんよりお母さんのほうがすきだったけど、お父さんのこともだいすきになりました。」
マヒロは、鉛筆をぎゅっとにぎりしめて、筆圧の高い大きな字を原稿用紙に書いた。一枚の半分以上うまっていた。
書けた、と私の顔を見ると、原稿用紙を私が読みやすいように反対にした。
「うんうん、読んでないママにこの本はこんな物語なんだってわかるな。」
マヒロはにかっと笑った。
「今日の課題は、あともう一回ご本を読むんだよ。」
三日目の課題は、あらすじを書くことと、もう一度本をよむことと計画書に書いていた。マヒロは壁に貼った計画書を見ると、小さいソファーにちょこんと座って、本を読み始めた。
次の日は、一番印象にあるところを抜き出した。
「次なんだけど、マヒロが一番印象に残った場面を教えてほしいの。」
マヒロは、うーんと言って天井を見上げてしばらく考えていると、鉛筆を持ち書き始めた。
「おとうさんが、なかなかできなくて、やっとできたときに、あゆみちゃんとおとうさんがうれしくて、ふたりでだきあったところです。」