と、母の小さな背中に向かって、叫んだ。
夏休みは私の体調の回復等知る由もなく、まもなくやってくる。あの日から読書感想文が頭から離れない。
マヒロに、夏休み前に読書感想文の宿題、今年はママと一緒にやってみよと言ってみたけど、唐突すぎる言葉に不思議そうにコクッと頷いた。
マヒロが夏休みになる前日に、母は家に戻った。二人になったマンションの部屋で私は不安になっていた。突然動悸がおきたら、頭痛で起き上がれなくなったらと思ったら、怖くてしかたがなかった。
夏休み一日目。
マヒロは、いつも起きている時間に目を覚ました。
「ママ今日は大丈夫?ちょっと顔白いかな。」と、私の顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ。今日から読書感想文やろうね。朝ごはん食べたら、ここに集合。」
私はわざと、声をはって、元気だよとマヒロにも自分にも言い聞かせた。
朝ごはんの後、昨日書いた大きな画用紙を広げた。
白い画用紙には今日からの日付と、その横には何をやるか書いた読書感想文のスケジュールが書いてある。
マヒロは、「ママが先生だ。」と、私の片方の足に両手を巻き付けて、おどける。
私にとっても、読書感想文をやることは、今年の夏休み中の宿題になるだろう。
まだ動悸が突然おきたり、頭痛や吐き気で横になっていることも多い日が続くなかで、一日一日計画通りに進めることは、今の私には不安ばかりだ。
今日は、早速課題になっている本を買いに行くことになっていた。
マヒロは、麦わら帽子をかぶると、小さなポシェットをかけて、玄関で靴を履いて、早く~と大きな声で私を呼んだ。
ここ1か月以上まともに外出していなかったので、玄関の外を出るとやけに眩しい景色に思わず目を閉じた。動悸が襲ってこないか心配だったけど、マヒロにそんな姿をこれ以上見せるわけにはいかない。
本屋さんまでの道のり、マヒロはつないだ手を離そうとせず、学校のことや好きな歌を歌って本屋さんまで歩いた。
課題図書となっている何冊かの本の中から、マヒロは題名を見て、「これ」と迷わず指さした。題名に「お父さん」という文字が入っていて、ズキッとした。
私は中身をペラペラとめくってみたが、二年生には書きやすそうだったし、何よりマヒロが気にいったものの方がやる気もでるだろうからと、マヒロに手に取るようほどこした。
二日目、朝起きてきたマヒロに、
「今日は、昨日買ってきた本読んでみようか。」と私が言うと、
「ヤッター。昨日はママが読むのは明日って言って、読ませてくれなかったでしょ。」と、マヒロはいつもより高い声で嬉しそうに答えた。