母は、背中をさすりながら、
「良いお休みなのよ。お金はなんとかなる。心配するんじゃない。」と笑った。
「マヒロも夏休みになるし。あなたも夏休みよ。」
そうだ。マヒロ夏休みになるんだ。忘れていた。
「今年はあなたが宿題みてあげてね。お母さん去年マヒロと絵を書いたり、ドリルやらせたり、そうそう、読書感想文も何十年ぶりにトライしたわよ。」
母は、いつもより声高に、おどけた表情をしてみせた。
「読書感想文か。去年やったんだね。私、仕事仕事って言って、お母さんに全部まかせちゃってたからね。」
私は涙を手の甲で押し上げると、無理に笑って答えた。
「大変だったわ。マヒロったら、私がじゃあ書いてみてって原稿用紙渡して、しばあらくして戻って覗いたら、一行よ。「さいごなかなおりできてよかったです」、のみ。」
あははと、私は笑った。
「私が一年生の時一行だった?」
「さあ、どうかな。覚えてないけど、一行じゃなくて一枚ぐらいは自分で書いてたんじゃない。」
読書感想文得意だったからなー私、と考えていると、母は
「あなたはね、もう小学校三年生ぐらいから一人でコツコツ書いて仕上げてたわよ。それでもって、賞状毎回もらってきて、お母さんびっくりしたもの。」
「お母さんのご指導の賜物です。」
と、笑うと、母は真顔で、
「お母さん文章書くの苦手だったから、あなたが賞状もらう度に本当嬉しくてね。お父さんと誰に似たんだろうってよく話していたのよ。」
「え、そうだった?私、お母さんが、どこの場面が気にいった?とか、お母さんに導かれて作文にしてた覚えがあるから、お母さんもきっと得意だったんだろうなって思ってた。」
母は、洗濯物をたたみながら、横になってる私を真っすぐにみて、
「現実は、二人で汗かきかき、半泣きでやってたのが現実ね。読書感想文の書き方って本、二冊も読んだんだから、お母さん。」
そんな本まで読んでたんだ・・・。私はおかしくなった。それが、学生の頃の私の得意科目になったわけだ。
「それにね、お母さんマヒロの事も心配。私を困らせる事もないし、いい子だけど、何かをぐっと閉まってる感じがするんだよね。」
母は、たたんだ洗濯物をよっこいしょと持ち上げると、
「あなたも、マヒロの事を見られるいい機会だ。」と言って、マヒロの箪笥の方へ向かって歩いた。
私は、体を起こすと、
「マヒロの読書感想文いっしょにやってみようかな。」