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『真冬のセキレイ』大川タケシ


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「良いカメラ、持っているみたいですから」
 カメラマン、という言葉を聞いて思い出した。
 カメラにのめり込んでいた十代の頃、漠然とだが将来はカメラマンや写真家になりたいと思っていた。街の写真を撮ることに夢中になって、飽きもせずにセキレイを追って、図書館で有名な写真を見ては「いつか撮りに行くぞ」と夢を見ていた。プロになれないとしても、せめてカメラに関係する仕事には就きたいと思っていた。
「あの……大丈夫ですか?」
 カメラを握ったままぼんやりしていたからか、女性が言った。
 ぼくはカメラを操作すると、セキレイと同じ日に撮られた写真を見せた。
「これ、どこで撮られた写真かってわかりますか? 弟子屈のあたりだと思うんですけど」
 青い空と雪を頂く山々。特徴的な富士山の形。彼女は首を傾げて、風景写真をジッと見ている。
 答えを期待して聞いたわけではなかった。父が弟子屈に来ていたのは間違いない。地元の人ならこの写真に何か気付くかも知れないという、ほんの思い付きだ。
「摩周湖ですね。第一展望台からの風景だと思いますよ」
 なのに、その女性は迷わず答えた。
「違うんですか?」
「いえ……」
 自分で訪ねておいて、違うかどうかわからない。即答されるとは思っていなかった。摩周湖と彼女は言ったが、写真には湖なんてほんの少しも映っていない。上部には空と太陽、下部に連なった山と雪が映っているだけだ。
「この写真だけで、どうしてわかったんですか?」
「阿寒岳も映ってますし」
「アカンダケ?」
「この山のことですよ」
 富士山に似た形の山を彼女は指さした。
「第三展望台までの道は冬、雪で通れないですから。写真で見る限りじゃ根雪でもなさそうですし、冬に撮られた写真なら、たぶん第一展望台だと思いますけど」
「そう……ですか。ありがとうございます。ちょっと気になっていたもので」
 彼女の答えが合っているかどうかは、簡単に確かめられる。
 摩周湖の展望台まで行けば良い。

 翌日、ぼくはレンタカーを借りて弟子屈に向かった。
 釧路から弟子屈に向かう途中、凍り付いた美しい湖を見た。助手席の向こうに、雪原のように氷が広がっている。シラルトロ湖、と標識が出ていた。

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