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『真冬のセキレイ』大川タケシ


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どこで撮られたものだろう。セキレイの止まる木には雪が積もっている。冬の景色なのは間違いないが、日本のどこにでもいる鳥だから場所の見当も付かない。
「なあこれ、どこで撮った写真かな」
「さあ、お父さんは出張で色んなところ行ってたからねえ」
 場所のヒントになる写真がないかと、セキレイの前後に撮られている写真も確認した。
真っ青な空と太陽、それから山の映った写真がある。それなりに標高のある場所だと思う。写真に映っているのはほとんどが空だが、下部には雪の積もった稜線が連なっている。富士山のような山も写っていた。
 これが富士山だとして、こんな遠目に見られる場所があるのだろうか。地元の静岡は当然、東京から見る時だって富士山はもう少し大きく見える。
 美しいセキレイの写真をどこで撮ったのだろう。
 画像の撮影日時を確認すると、二年前の一月十日。セキレイも同じ日に撮られている。時間も数十分しかずれていないから、同じ場所で撮られたのは間違いないだろう。
「二年前の一月って、どこに出張してたかわかる?」
「二年前? なんて言われても、お父さんって出張でいつもどこかに行ってたし。日付だけじゃわからないよ」
「古い手帳とか残してないかな。スケジュールとか書いてるかも知れないし」
「そんなこと気にしてどうするの?」
「別に。なんとなくだよ。気になるんだ」
 父の手帳はすぐに見つかった。書斎の机の下、ダンボールの中に放り込んである。
 手帳によればその年、父は正月休みが明けてすぐに北海道へ飛んでいた。
「北海道?」
「そういえば、年末に出張が急に決まったことあったのよ。休み明けにすぐ飛行機でどっか行って、それが北海道だったかなぁ。なんか釧路って書いてあるけど。ほら、ここ」
 めくった手帳を母が見せる。
「釧路で打ち合わせだって。これが一月の八日ね。それから…なんて読むんだろ。デシクツ、って書いてある」
「デシクツ?」
「うん。読み合ってるかわかんないけど。師匠と弟子、の弟子。それから屈むって字かな。これ」
 弟子屈、とスマートフォンで検索する。北海道の地名でテシカガ、と読むようだ。
 手帳に残っているのなら、父がそこへ仕事で行ったのは間違いないだろう。
 弟子屈の山について調べると、硫黄山という山がある。インターネットで調べても、父の遺した写真に似たアングルは見つからない。富士山に似ているという情報もなかった。
 父は二年前に弟子屈へ行った。そこから移動できる範囲、富士山に似た山が見えるどこかでハクセキレイを撮影した。
「でも……どうしてセキレイなんだ?」
 北海道には本州で見られない鳥がたくさんいる。タンチョウツルにオジロワシ、シマフクロウやエトピリカ。ハクセキレイは美しい鳥だが、日本中のどこでも見られる。それなのにどうして、セキレイだけを撮影したのか
 野鳥を探す時間がなかったのかも知れない。偶然見かけたセキレイをほんの気まぐれでレンズに収めただけかも知れない。

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