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『真冬のセキレイ』大川タケシ


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 難しいとなれば尚さらムキになって、ぼくはセキレイを追い続けた。どこへ行くにも赤いデジカメを持ち歩き、チャンスがあれば写真を撮った。
 駿河湾、富士山、何気ない市街地の景色、堤防で佇む野良猫。目につくものを片っ端から撮影した。ヘタの横好きで撮影技術は少しも向上しなかったが、高校を卒業するまで、毎日のように写真を撮影していた。
 セキレイの写真は結局、一度もうまく撮れなかった。

「ゆきひろ、起きたの?」
 階下から母が来た。
「どうしたの? 押し入れなんかあさっても何もないわよ」
「赤いデジカメ、どこやったかな」
「デジカメ?」
「中学の時にさ、おれの誕生日に親父がプレゼントくれたじゃん。今まで誕生日のお祝いなんてくれたことなかったのに」
「あったっけ、そんなの」
「あったんだよ。どこにしまったかな」
「カメラが必要なの?」
「別に、そうじゃないけど」
 当時ですら型落ちのデジタルカメラで、今ではスマートフォンに比べても撮影の性能は劣る。見つけたところで使い道なんてない。
「お父さんのカメラ持って行ったら? もう使う人もいないし」
「は? 誰の?」
「だから、お父さんのだって」

 まだ片付けも済んでいない父の部屋。テーブルの上に立派なカメラが置いてあった。
 見た目はデジカメのように液晶画面がついているが、レンズは交換式。机の横にカメラバッグが置かれている。開けてみると、サイズ違いのレンズがいくつも入っている。
 カメラは本体も値が張るが、それよりも交換式のレンズが高い。これだけの数を思いつきや衝動買いで揃えたとも思えない。
カメラバッグの中に、傷だらけの赤いデジカメもあった。
「これ……おれのデジカメだ」
 ボディの赤い塗装は所々が剥げている。シャッターのボタンは反応が悪く、しっかり押し込まないと撮影できない。単三電池二本で動くタイプで、こいつのためにいつも電池をポケットに入れて持ち歩いていたのを思い出す。
でも、どうして父のカバンに入っているのだろう。
「もう使う人もいないし、アンタ使うなら持っていきなさい。お父さんもその方が喜ぶだろうから」
「くれるなら貰うけど……」

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