初対面でまさかランチまで予定されているとは。仕事でも感じないようなストレスが私を襲っている。
しかし、今さらどうしようもない。この現実をしっかりと受け止めるのみだ。
猛烈な睡魔が妙なテンションを生み出した。
待ち合わせはファミリーレストランだった。「ファミリー」に込められた意味は何なのだろうか……くだらない妄想が続く。
「あ、電話かかってきた。ちょっと迎えに行ってくる!」
渚は席を立つと店の外へと向かった。
いよいよか……私の心は妙に落ち着いていた。
「渚も年頃の女子ってことだな」
真理子は「クスっ」と笑った。
「何笑ってるんだ?」
「いえ、何もないですよ」
「まったく。こんな一大事に笑う奴があるか」
「はいはい、すみません」
そう言いながらも真理子の口元は緩んでいる。渚と同じ女性同士は気楽なものなのだろう。
「ちょっとトイレ行ってくる」
やはり、気持ちは落ち着いてなかった。少し気持ちを落ち着かせる必要がある。しかし、猛烈な睡魔にも襲われている。鏡に映る顔はひどく疲れていた。
私は両手で水を掬うと勢いよく顔を洗い、頬を二度叩いた。
「よしっ!」と、気を引き締めテーブルへ戻ろうとすると、渚の後ろ姿が見えた。そして、その隣にはもう一人の姿がある。
いよいよ顔を合わせる時がやって来たのだ。
私は俯きながら席に着いた。テーブルの上に昨日買ったプレゼントの袋が置かれているのが目に入った。
私は「ゴホン」と一つ咳払いをし、意を決してゆっくりと顔を上げた。
「初めまして、渚の父……」
「久しぶりね」
「あっ……」
そこにあったのは、お袋の姿だった。
「お袋!?一体、どうゆうことだ?」
「父さん、いい加減つまらない意地張ってないで、おばあちゃんと仲直りしたら?」
渚の言葉に私は再び下を向くと、俯いたまま何も言い返せなかった。
それは、今年の正月のことだった。
親父が亡くなってから三年が経過し、お袋も今年で八十歳を迎えようとしているタイミングを見計らって我が家での同居を提案した。
しかし、それをお袋は強く拒んだ。