インターホンを押すと体格の良い男が玄関を空け、「いやぁ、良く来たなぁ。今日は暑かったろう」と渋い声で歓迎してくれた。どうぞと誘われるまま、司は両親と共に室内に入った。
「わん! わんわん」
黒毛の犬と茶色の犬が、尾をはちきれんばかりに振りながら、一直線に走ってきた。司は驚きながらも、犬を見て笑顔を見せる。
「犬だ! 可愛い」
「こっちだよ」
おじさんに呼ばれる。通されたダイニングは小奇麗に片され、所々に犬の写真が飾られている。愛らしい仔犬や立派な体格の黒い犬、ハスキーのミックス。同じ顔をした三匹の柴犬は並んで座っている。瞳を輝かせて舌を出している姿は、写真の中でも生き生きとして、息遣いまで聞こえてきそうだ。
パパの友人のおじさんは、夫婦で犬の保護活動をやっていて、今まで沢山の犬達を新しい家族の元に送り出して来たそうだ。
「見てごらん、司」
司のパパが、窓際にある大きなサークルを指差す。
中には、愛らしい仔犬が三匹いた。白い毛並みに垂れた耳、身体にはところどころ茶色の模様が混ざっている。ある子は穏やかな寝顔を見せ、ある子は元気一杯に飛び跳ねながら、他の兄弟を踏みつけて無邪気に遊びまわっている。
司は瞳を一際輝かせ、歓喜の声をあげた。ずっと、ペットを飼いたいと思っていたから。
「ゴールデンレトリバーのミックスなんだよ。今、生後3ヶ月ちょっとかな。抱っこしてみるかい? どの子がいい?」
おじさんは麦茶を片手に、はにかんだ笑顔で言った。司は仔犬たちを覗き込む。どの子から、さわろうか。みんな可愛い。
仔犬はそれぞれ、赤、青、黄色と、首に違う色のリボンをつけている。
その中で、緑色のリボンを付けた仔犬と目があった。
「この、緑の子」
そう伝えると、おじさんがその子を抱き上げて司に渡した。
白い毛はふわりと軽く優しい。まるでたんぽぽの綿毛だ。仔犬の暖かい体温が司の腕にじんわりと伝わってくる。司は仔犬を落とさないように、おっかなびっくりと抱っこした。子犬は腕の中で大人しくしている。ママがそばに来て、司の耳元でこう言った。
「今日はね、司の家族を見つけに来たのよ」
続けて、おじさんが司の前でしゃがんで、こう教えてくれた。
「この子達はね、まだ小さいけど、捨てられて辛い思いをしてきたんだ。家族になって大事にしてあげてね」
「……そうなんだ……うん、分かったよ」