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『ぼくの妹』鑑佑樹


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 司のママは、息子の穏やかな寝顔を見てゆっくりと微笑んだ。小さな腕には白い犬のぬいぐるみをしっかりと抱きしめている。幼稚園の時に司が欲しいと言って買い与えたのだけど、今ではすっかり色あせて薄灰色になってしまっている。それが息子の寝顔と相俟って、何とも言えない悲しさを感じさせる。罪悪感に似たような思いが胸にこみ上げてきた。
 息子を起こさないように、ゆっくりとタオルケットをかけると、ママは逃げるように部屋を出た。

「ねぇ、あなた……」
 彼女は、リビングでほっけ魚をつまみに晩酌をするパパに声をかけた。
「ローンが終わるまで、結構かかるじゃない。司にそれまで、ずっと寂しいのを我慢させちゃうと思うんだけど、やっぱり気になって……」
「うん、そうだな……」
「あの子、友達もいないみたいだし」
「え、いないのか?」
 パパは、魚をつついていた箸を止めると、ママに目を向けた。
「引越ししてから、家に友達つれて来てるの見た事ないのよ。私も、いつも家に居るわけじゃないけど、不安になっちゃって」
「お前までパートで働かせちゃって、ごめんな……」
「それはいいんだけど――」
 ママは口をつぐみ、背を向けて、そのままキッチンの洗い物をはじめた。
 コップや皿が次々に泡につつまれ、キュッキュッと軽やかに滑る音を立てていく。
「そうだ!」
 突然、背後から弾けるような声が聞こえた。振り返ると、パパが咲き零れるような笑顔で、こう言った。
「司に『きょうだい』を連れて来たらどうだろう? せっかく一軒家になったんだし」
 ママはきょとんとしていたが、その後にパパの説明を聞くと、顔をほころばせて賛成した。

「わぁい!」
 楽しそうな子供の声。
 司の学校が夏休みに入ってから、両親の仕事休みに合わせて三人で出かけることになった。
 まさか三人で出かけられるとは思っていなかった司は、嬉しそうに足元を弾ませている。駐車場までの短い道のりをくるくると回る姿は、さながら蝶々だ。
 軽自動車に乗り込み、一時間近く揺られた。ようやく外に出た時には、夏の日差しが眩さを増して、力強く降り注いでいる。それに答えるかのように蝉達が歌っていた。
 陽光と共に熱気は全身に降り注ぐが、司の足取りは軽かった。
 両親と共に、何気ない雑談をしながら歩き、ある一軒の家にたどり着く。

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