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『あの香り』多田正太郎


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この授業参観から、五年の歳月が流れていた。

伊藤との飲み会は、祭りでの「鍋壊し」の話題になっていた。

「カジカ鍋、漁師のまかない飯が始まりといわれるだけあって、調理の仕方はいたってシンプルなんだ」
「でも、絶品、だべ!」
「ああ。カジカは、尾と肝臓以外、内臓は切り捨てるほか、全てが食材の魚だ。身をぶつ切りにし全体に熱湯をかける。鍋に昆布を敷き、身と肝臓と野菜を入れる。それだけだ」
「食いたい!」
「ははは。煮あがったら、醤油汁に浸けて食べるか、初めから味噌仕立てで煮て食べるかだ」
「美味すぎて、箸で鍋底をつついて壊してしまう、名の由来もうなずける、べさ!」
「ああ、煮込んだ香りも最高だしなぁ」
「鍋壊し、味も香りも最高だった!」
「ああ、そうだな」
「お前の、おじいさんの、あの味付けがさ!」
「そうだったなぁ」
「ああ、最高だったよ」
「そうかぁ」
「みんな、大騒ぎだったよ、美味しくてさ」
「ああ」
「お前、いいなぁ。」
「何だ?」
「じいちゃん、いたからよ」
「ああ、両親が事故で死んでから、ずーっと、祖母と育ててくれた」
「そうだったんだなぁ」
「ああ」
「おい」
「何だ?」
「今年の祭り、俺たちでよ、鍋壊し、やろうぜ!」
「俺たちで、か?」
「ああ、やろうぜ!」
「どうかなぁ」
「どうして?」
「味よ、出せるかなぁ」
「いいじゃん!」
「うーん、まぁなぁ」
「ああ、同じでなくともよ」
「ああ、そうだな!」
「ああ!」
「よし、やるべ!」

コミュニティ局が、中心になって企画している、祭り会場に、息子の蒼と向かった。会場は、よくもこんなに集まったものだと思われるほど、地域以外の来場者などでごった返していた。

「おやおや、すごいねぇ」
「よくぞ、こんなに集まったね」
「ああ」
「ここに、じいちゃん、居れば最高だったんだけどなぁ」
「ああ」
「父さん、俺さ、珈琲飲みたいなぁ」
「おや、そうかぁ」
「ああ」
「よし、戻ったら落とすか、マンデリンでも」
「いいねぇ」

前年他界した祖父の面影を感じさせる蒼が、なんだか急に、逞しくなったような気がした。
そんな息子の蒼から、ミント系の香りが。

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