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『あの香り』多田正太郎


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息子が小学生の頃の、父親参観日だった。
さすがに、この国にも、外人が増えて、さほど珍しくない昨今では、俺の容姿に、それほど気に掛ける者もいなくなっていた。まぁ、でも教室に入ると、視線は感じた。だが、あの粘っこい感じで、視線をむける時代でもなくなっていることには、感謝したい。そんなことを感じながら、教室の後ろの父兄席に座っていた。息子の蒼が、合図を送ってきた。
合図を返した。

「ハーイ、静かにー!」
「今日は、お父さんが来てますね」
「俺んち、来てない」

参観の父親達の笑いを誘う。

「まぁ、都合で来れない、お父さんもいますけどー、静かにー」
「はーい」
「では、授業を始めまーす!」
「はーい!」

この直前に、息子が、戻ってきた、俺の処に。
あの頃は、どん底の日々だった。

「はい、あぁ、お世話になっております。えっ、えぇ、わかってます。はい、えぇ、それで結構です。えっ、いえいえ、不満なんかありませんょ。早速、取材に伺いますので。有難うございます」

久々の依頼は、正直、ありがたかった。全てを失って去った東京での生活。そしてコミュニティラジオ局。全く偶然のいきさつで引き継ぐこととなったが、経営なんて代物とは程遠い。元アナウンサーとか、放送の世界を退いた後も、この世界が忘れられない、そんなボランティアの面々が、無給で支えてくれている。俺は、まぁ聞こえはいいが、経営者と編集局長とパーソナリティと、雑用と、全てかねている。そして、フリーライターも、食うのがやっとだった。二十歳で学生結婚したけど、妻の実家の援助で、博士課程までの学生生活や、卒業後の五年ほどの講師や助教授時代の生活も、貧乏生活どころか優雅な生活だった。妻の実家が桁外れの資産家で、そこの一人娘だったからだった。東京で実力も無く大学の教員になれたのも、理事長を務める義父の力で、だった。結局、自ら追い込んで、つい論文の引用トラブルをしてしまい、大学も妻やその実家からも追い出された。
たけど、今こうして、幸い息子の蒼は、自分が引き取ることが出来た。元妻や義父たちが、息子を説得したけど、息子は俺と一緒に居たいと、言ってくれた。あの時、そんな記憶に、浸っていると、気付いた時には、参観授業は終わっていたのだった。

「父さん」
「何だ」
「格好良かったよ」
「何だよ、急に」
「だから、格好よかったって、お前んちの父さん格好いいなぁって、友達言っていたよ」
「へー。そうかぁ」
「そう」
「そうか、良かったな」
「うん、そしてさー」
「おや、まだあるのか?」
「いい匂いしていたって」
「えっ、匂いかぁ」
「うん」
「そうかぁ」
「うん」

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