「父さん、聞こえるのかよ。おい、父さん」
瑞希に触発されて、晴樹も呼びかけてみた。
正之の瞼が、わずかに開いた。真っ直ぐ天井を見ているようだ。
「パパ、目が覚めたの。瑞希だよ。私のこと、分かる」
瑞希の呼び掛けに、正之はゆっくりと、少しだけ首を動かして、瑞希の方を見た。
「ねえ、お兄ちゃん。パパが起きたよ。パパの目が覚めたんだよ」
瑞希の目にいっぱいの涙が溜まり、それは直ぐに溢れてこぼれた。瑞希と見詰め合った晴樹の目にも涙が溢れている。
「お兄ちゃん、ママに電話してくる」
瑞希は携帯電話を握りしめて、病室を出て行った。病院の玄関を出て、一刻も早くママに知らせてあげたい。
家で留守番をしていた瑠璃子は、瑞希の電話で、すぐに病院へ向かった。瑠璃子が新幹線に乗って病院に着いた頃には、正之はもう少し意識がはっきりしてきていて、瑠璃子に笑顔を見せた。
意識が戻り、最初は起き上がることも出来なかったが、リハビリをしていくうちに、何とか自力で起き上がれるところまでになった。担当医師からは、奇跡的とも言われたが、まだ若いから筋肉も有り、リハビリ次第では、元のように歩けるかもしれないと言われた。
正之の会社は、長野支店長と新潟支店長が一緒に見舞いに来てくれて、回復したら新潟支店勤務に戻してくれると約束してくれた。
病院の方も、自宅近くの病院へ転院できるように手配してくれた。家から近いから、日曜日には、家族三人そろって見舞いに行ける。
「晴樹と瑞希のお蔭で生き返ったなあ」
正之が、ベッドの横に座っている二人の子供に言うと、後ろから瑠璃子が顔を出した。
「ねえ、私のお蔭は?」
「そうだよ。パパはママを大事にしないと、ね」
そう言った瑞希が、やけに大人びて見えた。