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『もう一度家族になろう』川村文人


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 瑠璃子のやつ、突然、面倒なことを言ったものだと思った。明日の金曜日は、毎週見続けているテレビドラマが有るのにと思ったが、まあ、そんな理由が認められるはずもない。
「分かったよ。金曜日、仕事が終わったらそのまま帰るから。まあ、十二時近いかもな。日付が変わらないうちには着くようにするよ」
 今週のゴルフ相手は仕事先ではなく、同僚とのプライベートゴルフだったから、悪いけど断るしかないなと思いながら、電話を切った。 
 いつもなら、アパートへ帰っても退屈だから、適当に残業している。でも今夜は早くアパートに帰って、土日にやろうと思っていたことを終わらせなければならない。仕事は定時で切り上げて帰宅した。
 アパートに帰ると、会社帰りに買ったコンビニ弁当を急いで食べ、洗濯機を回し、流し台に溜まっている食器を洗う。
正之は食器洗いが終わると、次は、風呂のお湯を溜めながら、軽く掃除機をかけた。一週間に一度くらいは掃除機をかけないと、狭いアパートは埃が目立ってくるのだ。
掃除機をかけ終えて、テレビの前に腰を降ろした。
 急遽、金曜の夜に、新潟の家に帰ることになってしまったから、まずは、金曜夜のテレビドラマの録画予約だ。それに、この間の土曜日に借りたままになっていたDVDは、今夜見て、明日の出発前にレンタルショップへ返さなければならない。
DVDを半分くらいまで見てから風呂に入ると決め、再生をスタートさせる。正之が見ているテレビ画面は、五十インチの大画面液晶だ。二年前の夏のボーナスで買ったものだ。新潟の家族が暮らす家のテレビは三十二インチだから、正之一人用のテレビの方が大きい。
 今では、家に帰るより、アパートで過ごす週末の方が楽しくなった。何だか、自分の家と言えば、アパートの方が自分の家という気がするようになってきた。
 家族が待つ家に帰るのは楽しいだろうと、人は言う。でも、いつの頃からだろうか、家族が待っていなくなったのだ。妻と子供たちが住む家。自分はたまにそこに帰ってきて、ご飯を食べて、ごろごろして、そして帰って行く人になってしまった。
 金曜日の夜、日付が変わるちょっと前に家に着くと、玄関の小さな明かりが灯っている。車を停め、玄関の鍵を開ける。リビングはすでに暗い。二階を見上げると子供部屋のドアの隙間から明かりが漏れているから、晴樹も瑞希も起きているのだろうけど、顔を見せることは無いだろう。階段を上って寝室に入ると妻の瑠璃子はすでに夢の中だ。
「金曜日に帰って来る意味無いじゃないか」
 瑠璃子の寝顔につぶやいてみるけれど、もちろん返事は無い。
 夕食は、高速のパーキングで済ませてきたから、後は風呂に入って寝るだけだ。それでも、ベッドの上に、洗濯したパジャマが置いてあるのが、唯一「お帰り」の印だろうか。

 土曜日とは言っても、晴樹は土曜講習という名の授業で学校。瑞希は部活。朝目覚めた時には子供たちは出かけた後だった。新聞を眺めながら朝ごはんを食べていると、目の前を瑠璃子が、せわしなく行ったり来たりしている。
「私、サークルの集まりが有るから出かけるからね」

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