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『壜のなかの2匹』もりまりこ


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 それでも私は、子供の頃にさかんに砂糖のまぶされたコーンフレークばかりおやつに食べていたことを思い出したりしていた。
 おじいちゃんが好きだったから私もつられて好きになった。

 あの頃はなにがイエスでノーだったんだろう。
 根拠のないイエスと時折訪れるかたくななノーに囲まれていたような。
 年月を経てたとえばうっかり人を好きになりそうになると、このイエスとノーがどこか、あとかたもなく消えてゆく。
 ちょうどその間にしかすべての答えがなくて、選択肢はもうどこにもないような。こういうのやっかいだなって思いつつも、そのまんなかにある「わからない」という現象に取り囲まれてしまう。いつしか夏島のことを考えていた。

「応用問題がわからないときは、ちゃんと紙に書いて解きなさい」
 おじいちゃんがいつも言っていた言葉を思い出して、10数年ぶりにやってみる。イエスでもノーでもなくとつづりながら。長調でも短調でもなくと指が動く。それは無調という音のつらなりのことらしい。
 夏島がふたりで暮らそうって言ってくれた声を聞きながら、とつぜん私は、「よくわからない」という言葉しか発せなかった。
 夏島は、「それでいいよ。冬美ちゃんいまはまだ無調でいいから」って答えた。

 富樫先輩が出張の為、オフィスに彼女はいなかった。
 それでも、オフィスの中は富樫先輩に似た視線を放つひとは、たくさんいる。
 帰り際、富樫先輩の上司の鎌田課長がすたすたと、すかすかの足取りでやってくる。
「明日の昼一の資料ね、綴じずによろしく。慣れたもんでしょ。眠っててもできる仕事でしょ。なるはやでお願いしますよ。リミットは退社までっつうことで」
 心の中では、ちぇって思いかつ、明日の昼一なら明日でもいいじゃん。眠ってでもだって、なるはやだってっていちいち吐き捨てようとしていて、いつかみたいに西の方向へと視線をやった。夏島の姿は、そこにはなかった。

 鎌田課長からの資料を斜め見ながら、この間見ていたスツールの上の壜の内側のきれいな蛾のことを思い出す。
 時間が経ったから当然もういないと思ったけど、あの時の壜も蛾もいなかった。はじめからいなかったかのようにいなかった。

 思えば今日はいちども何かを綴じていなかった。カキンってしてない。
 物足りなくなっているじぶんに呆れながらも、なるはやで課長の机の上に置いておいた。

 同僚の朝井にもらった手のマッサージ専門店の回数券が、手帳の中から出てきた。<みるく・ほわいと>のゲートをくぐる。

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