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『蚊遣り』来戸廉


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 妻に「帰るのは昼過ぎになる」と告げて、車を出した。一時間程でY市に着いた。目当ての店のほかにも洋服屋や雑貨屋を数軒、二時間ほど引き回された。その間に美晴は、小さな紙袋一つだけの買い物をした。
 帰り道。半分ほど来たところで、渋滞に捕まった。百メートルほど進んでは、数分止まる状態を繰り返す。この辺りの抜け道には明るくないし、車にはカーナビもない。これでは家に着くのが何時になるか分からないなと覚悟していた。すると美晴が、
「そこの脇道に入って」
 と指示を出しながら、スマートフォンを私の目の前に翳(かざ)した。画面に表示された地図上の青い線と赤い矢印。青い線が家までの経路で、矢印の位置が現在地を示し矢印の向きが進行方向を表しているらしい。
「ほう、そんなこともできるのか」
「そうよ。便利でしょう。分かった? 私がいつもいじっている理由」
 美晴は鼻高々で私を見る。認めるのは癪(しゃく)だったので、返事の代わりに少し乱暴にハンドルを切った。
 しかし二十分ほど走らせた辺りで、突然スマートフォンの画面が暗転した。あれっ。美晴は「電池が残り少ないわ」と電源を切ってしまった。
「お前が任せろと言ったから、こんな知らない道を来たんだぞ」
「スマートフォン電池なければただの箱ってね。まあ、そんなこともあるよ」
 美晴はあっけらかんとしている。ここまで見事に開き直られると、怒るのを通り越して笑いたくなる。今さら引き返すわけにもいかないので、電柱や看板の地名を頼りに走っていると、やがて少し広い道に出た。
「なんだ。ここに出るのか」私は思わず独りごちる。
「どこだか分かったの?」
 ほっとしたような美晴の声が被(かぶ)さる。少しは責任を感じていたようだ。
 町並みはすっかり変わっていたが、道路案内板に書かれた神社の名前ははっきりと記憶にあった。その昔、自転車を飛ばして何度も来たことがある場所だった。中学の同級生だった川村友子の実家が、この神社の側にあったからだ。
 数ヶ月前のことになるが、彼女の噂話を聞いた。去年の暮れから実家に戻って、喫茶店をやっている姉を手伝っているらしい。その時点で、会いに行こうとも思ったが、なかなか行動に移すことはできなかった。物理的には自転車で二十分ほどの距離だが、心情的には数千キロほどに遠かったからだ。それが美晴のちょんぼのおかげで、図らずも今すぐ近くにいる。これは運命だと思った。
「ちょっと寄り道してもいいか?」と聞くと、暇を持て余していた美晴は「別に、いいよ」と即答した。
 ものの数分で喫茶店に着いた。店の前の駐車場に停める。エンジンを切っても一向に下りようとしない私に、美晴は何かを感じたようだ。美晴は「ここなんでしょう。入るよ」と私の腕を取る。ちょっと待て。私は抗(あらが)う素振りしながらも、美晴に引っ張られるまま店に入った。
「いらっしゃいませ」

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