「ところでお前達は、好きな相手に気持ちを打ち明ける時、メールとか使うのか?」
私はこの頃やっと携帯電話のメールだけは使えるようになった。以前会社ではパソコンのを使っていたが、それは業務遂行上やむを得なかったためで、操作に詰まるといつも若いヤツの手を煩わせたものだ。退職してほっとしていたが、ことのほか便利なことにも気づいた。写真画像を送ってもらえるのがいい。子どもと離れて住んでいると、孫の写真が嬉しい。だがパソコンに触るのはうんざりだと一旦は諦めたが、携帯電話――私のは折り畳み式のもので、美晴はまだそんな“ガラケー”使ってるのと笑う――でもできると知り、それならと必死で覚えた次第だ。
「何よ、突然」
確かに、私も話のきっかけとしてはいかにも唐突すぎたとは思った。でも言ってしまったものは仕方ない。
「いや、ちょっとな」
「おじいちゃんの質問は、自分が知りたいことだけワンポイントで来るのね。いつもそう?」
「そんなことないだろう」
「ううん、そうよ。普通は前置きとかあって、話が始まって、途中で話題を変える時に『ところで』なのよ。おじいちゃんのには、そんなところがないのよ」
何だか娘に説教されているような気分になった。私が口をつぐんでいると、
「うーん。メールよりLINEかな。私の周りも使っている子、多いね」
と素直に質問に答えてくれた。
「お前がにらめっこしているのが、そのラインってやつか。でもそんな告白で嬉しいのか?」
と私が画面を覗こうとすると、美晴はそうはさせないとばかりに、すっと胸元に引き寄せる。
「そんなに重いこと書かないし。だって告って断られたら格好悪いし、それって気まずいじゃない」
「そんなもんか」
「じゃあ逆に聞くけど、電話だったらいいの? それともラブレターの方?」
と突っかかる。やっぱり面と向かって言うのが一番かなと考えながら、自分はどうだったかなと思い起こしていたら、「おじいちゃんはどうだったの?」と聞く。私は見透かされたみたいで、どきっとした。「何がだ」としらばくれる。
「おばあちゃんにはちゃんと告白したの?」
「俺のことはいいよ」
言下にやんわりと、だがぴしりと美晴の質問をはねつける。
「ずるい、おじいちゃん。自分に都合の悪い時は、いつもそうやって逃げるんだから」
「逃げちゃあいないさ。昔のことだから忘れただけだ」
「そうやって、すぐ年寄りの振りをする!」
「だって年寄りには違いないからな」
「もういい。後でおばあちゃんに聞いてみるから」
それはよせと言いかけて止めた。どうせ美晴は聞く耳を持たないし、話し好きの妻の口に戸を立てることもできない。おそらく脚色を施して面白おかしくしゃべるに決まっている。その後の美晴の訳知り顔が面白くない。げんなりしていると、
「でも昔の人は、歌で自分の思いを打ち明けたんでしょう。国語の授業で習ったよ」