と制される。のぞみの愚痴話しは、何時も始まると長いのだ。お父さんは、そのやり取りを、矢張り笑いながら聞いている。
大きめに引き延ばした写真を特製の写真立てに入れた母を、ずっと変わらない定位置の席に連れてくる。この日は、五人で食事をするのだ。
食卓を皆で囲むと、お父さんはビールを冷蔵庫から取り出した。のぞみとかおるはお酒が大好きだが、私はそれほどでも無い。一杯をちびちびと舐める程度だが、夏にこの家で皆と飲むビールは矢張りとても美味しい。
いただきます、の挨拶をすると、皆我先にコロッケに箸を延ばす。
一口食べると、サクサクに揚がった衣からじわりと肉汁が出てきて、甘く濃厚なジャガイモの味が口の中一杯に広がる。ひき肉とジャガイモの配分が丁度よいのだ。衣に味が着いているので、ソースはいらないくらいなのだが、特性のソースがまた甘辛い絶妙の味付けで、食べる前よりも食欲を沸かせるのであった。
一口食べる度に、のぞみは天を仰ぐ。
「うーん、美味しい!矢張りコロッケはお母さんのだねー。他所では絶対食べないもん、あたしコロッケ」
のぞみが云うと、かおるは頷く。
「私も。年に一度しか食べられないから、尚更だよね」
「これがお母さんの味だもんね」
私も、云った。お父さんは、ビールを片手にコロッケを一個瞬く間に食べ終り、大きく頷いた。
「うん、今年もお母さん帰ってきてくれたな。毎年ドキドキするんだよ」
そう云って、笑う。
「お盆なんだし、私達も居るんだから、此処に帰ってくるに決まってんじゃんー、何云ってるのお父さん」
のぞみも、笑いながら云う。
「でも、本当に不思議だよね。毎年、不思議。こんなに美味しいんだから、もっと頻繁に帰ってきてくれてもいいのに」
かおるが云った。お父さんも、頷いた。
「そうだな。他の機会にも作ってみるんだけどな。どうしても、このコロッケの味にはならないんだよ。全く同じ作り方をしている筈なんだけどなぁ」
父が空けたビールを、手酌で注ごうとするのを、私は制して瓶を持った。よく冷えたビール瓶は、冷たい汗をかいていた。
「だから、お母さんが帰ってこないとやっぱり駄目なんだよ。お母さんのコロッケなんだもん」
「そうそう。私達いないのに、お母さんのコロッケ食べようだなんて、お父さんずるいよー」
のぞみは、食卓に乗せた母の写真に向けて、
「お母さんー。お父さんだけに食べさせちゃあ駄目だよー。私達も食べたいんだからさぁ」
皆、それを聞いて、笑った。
母の写真の笑顔も、より大きく鮮やかになったように、私には、した。
食事が終わる頃には、父はすっかり酔ってしまっていた。昔はこの程度の量では酔わなかったと思うのだが、矢張り歳なのだろう。顔を真っ赤にして、寝入ってしまった。朝から、私達を迎える為にてんてこ舞いだったのだろうから、疲れてもいたのだろう。