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『風酔い盆』佐藤剛


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 車内では、昔から変わっていないのぞみがボケてかおるがつっこみ、お父さんがそれをとても可笑しそうに笑う、というリレーションが、展開されている。私もたまには混ざるけれど、どちらかと云うと私は聞き役だ。ふっと、家までの途上、私は母の事を考えていた。  
 母は、私が生まれて物心付く前に亡くなってしまった。だから、私には母の記憶自体は無い。それでも鮮明に『母の記憶』としてあるのは、お父さんとお姉ちゃん二人が、一生懸命私を寂しがらせないように語り、アルバムの写真などを見せて『母という人』を私の中に組み立ててくれたお蔭であった。明るく笑い、病気ひとつした事が無いくらい元気な人で、料理がとても上手かった人。中でもコロッケは絶品だった。纏めてしまうとこのような感じなのだが、私にはお父さんと姉達のお蔭で、無限の思い出があった。何をするにも一緒だったような気がしたのだ。私達は、常に母と共にあれたのだ、と思える事は幸せな事だと、私は思う。  
 しかし、料理だけはどうしようも無かった。母は、非常に感覚的な人だったらしく、レシピも無くひょいひょいと傍から見ると適当に組み合わせたとしか思えないような手軽さで、何時も絶品な料理を作っていたそうだ。その記憶は、お父さんは勿論、のぞみもかおるも持っていた。だが、私にはその『味の記憶』だけは無いのだった。要するに、無いものねだりと云う奴なのだろう。誰が悪い訳でもない。  
 しかし、どんな物にも例外はある。  
 それが、今日という日なのだった。  
 やがて車は実家に到着した。お父さんが一生懸命に手入れしてくれているのだろう。子供の頃のままだ。毎年来るのだけれど、その度に子供の頃の記憶の中に戻ってきたような気が、私にはした。  
 今日の一日は、この準備で明け暮れたのだろう、お父さんの作った夕食に、私達は迎えられた。  
 テーブル一杯に置かれた大皿小皿。私達それぞれの好きな物をお父さんは覚えていてくれて、色取りどりに卓を飾っている。その中で一際目立つのが、大皿一杯に盛られたコロッケであった。  
 これは、毎年変わらない。
「あー、お母さんのコロッケだー」  
 のぞみが、はしゃぐ。私達皆がそれを大好きなのだ。  
 ウチは風呂は夕食の後、と何となく決まっているので、夕食には少々早い時間ではあるのだが、私達は食卓に着いた。その前に、母に挨拶をする。
「今日もね、お母さんのコロッケ、食べにきたよ。一緒に食べようね」  
 かおるが、云った。私は、手を合わせて仏壇の奥の母の顔を見る。色褪せない笑顔で私達を迎えてくれていた。
「お母さんー、聞いてー。この間人事異動でウチに来た上司が、ちょー嫌な奴でさー」  
 のぞみが毎年の愚痴を母に聞いて貰おうとしているが、かおるに、
「それは後でね」

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