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『風酔い盆』佐藤剛


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 夏の駅前ロータリィ、というにはあまりにも小さい、タクシー乗り場もないそれは記憶にある通りのままであり、しかも暑かった。岡山は『晴れの国』などと呼ばれる程、晴天率の高い県なのだが、その異名に全く恥じない堂々たる晴れっぷりと云える。日本中が、年々暑くなっているような気もするのだが、矢張り記憶の中の子供の頃に遊びまわったこの地元の夏の暑さが、自分にとって、最も暑い夏なのだった。  
 小さな駅前広場は、私が常に知る姿のまま、寸分の変化も無かった。その事に何故か私はほっとする。無人の駅も、駅から降りてすぐに目に入る工場も、山陽新幹線の線路も、そのままだ。  
 暑いのが毛虫より嫌いなのぞみは、もうへばっている。
「ちょっと、お父さんまだ来てないじゃない」  
 かおるが辺りを見回すけれど、辺鄙な田舎のロータリィである。停車している車も一台も無い。
「すみれー、時間ちゃんとお父さんに伝えたのー?」  
 のぞみが私に、聞いた。
「うん、間違いなく伝えてる。メールでも事前に送ってあるし、昨日電話でもう一回確認もしたし」
「渋滞、は無いか。この田舎だしね」  
 かおるが云う。遠く、蜩が鳴いているのが聞こえる。のぞみは、そのおっとりとしつつもマイペースを堅持するスタイルが充分に表れている話し方をするが、かおるはそれに全く似ず、はきはきと端的に話す。二人とも口数は同等くらいで、私の出る幕はあまり無い。  
 そんな事をくっちゃべっていると、一台の車がごとごととロータリィの中に入ってきた。もう六度ほどの車検を通過している、父の車であった。父の穏やかな性格を反映してか、丁寧に扱われているその車は、矢張り私の記憶にあるそのままの姿で、今日も現れてくれた。  
 私達の目の前で車を停めると、満面の笑みと共にお父さんは降りてきた。
「ちょっとー、お父さん遅いー」  
 のぞみも笑いながら、云う。  
 お父さんは頭を掻いた。
「すまんすまん。夕食の支度をしていたら、思いのほか時間が掛かってしまってね」  
 そう云いながら、お父さんは私達の荷物を、開けたトランクにどんどん乗せていってくれる。髪は殆ど白くなり、私の記憶で最も印象の強い頃より大分小さくなってきているのだが、矢張り男性である。軽々とした物だった。
「今日は、お母さんも帰ってくるからね」  
 私が云うと、お父さんは黙って頷いた。  
 ごとごとと揺れる車に四人乗り込み、若干効きの悪くなっている冷房を諦めて、窓を全開にして走ると、最近では嗅ぐ事の出来ない夏の香りが鼻孔をくすぐった。草と、土と、陽の匂いなのだろう。日本全国、それほど違いは無い筈なのだが、やはり郷里、というのだろうか。独特なものに私には感じられた。  

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